PERFECT DAYS

2023年ヴィム・ヴェンダース監督作品

PERFECT DAYS』(パーフェクト・デイズ、原題:Perfect Days)は、2023年日本ドイツ合作で制作されたドラマ映画

PERFECT DAYS
Perfect Days
監督ヴィム・ヴェンダース
脚本ヴィム・ヴェンダース
高崎卓馬
製作柳井康治
製作総指揮役所広司
出演者役所広司
柄本時生
中野有紗
田中泯
三浦友和
撮影フランツ・ルスティグ
編集トニ・フロッシュハマー
配給日本の旗 ビターズ・エンド
公開ドイツの旗 2023年12月21日
日本の旗 2023年12月22日[1]
上映時間124分
製作国日本の旗 日本
ドイツの旗 ドイツ
言語日本語
興行収入12億906万円
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ヴィム・ヴェンダース監督が役所広司を主役に迎え、東京を舞台に清掃作業員の男が送る日々を描く[2][3]第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、役所が日本人俳優としては『誰も知らない』の柳楽優弥以来19年ぶり2人目となる男優賞を受賞したほか[4][5]エキュメニカル審査員賞も受賞した[6][7]

また2024年の第96回アカデミー賞では日本代表作品として国際長編映画賞にノミネートされた[8][9]

概要

映画製作のきっかけは、渋谷区内17か所の公共トイレを刷新する日本財団のプロジェクト「THE TOKYO TOILET」である。プロジェクトを主導した柳井康治(ファーストリテイリング取締役[10])と、これに協力した高崎卓馬が、活動のPRを目的とした短編オムニバス映画を計画。その監督としてヴィム・ヴェンダースに白羽の矢が立てられた[11]

小津安二郎の事跡をたどる『東京画』(1985)を監督するなど日本とのつながりの深さで知られたヴィム・ヴェンダースは、当初、短いアート作品の製作を考えていたが[11]、日本滞在時に接した折り目正しいサービスや公共の場所の清潔さに感銘を受け、長篇作品として再構想[12]。ヴェンダースが日本の街の特徴と考えた「職人意識」「責任感」を体現する存在として主人公を位置づけ、高崎卓馬の協力を得て東京を舞台とするオリジナルな物語を書き下ろした[13]

主人公の男に与えられた「平山」という名前は、『東京物語』や『秋刀魚の味』で笠智衆が演じた登場人物をはじめ、小津安二郎監督の作品に繰り返し使われる名前である[14]

ヴェンダースのドキュメンタリー映画『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』でカメラを担当したフリッツ・ルスティグが本作で撮影監督をつとめ、東京都内を中心に17日間にわたって撮影が行われた[15]。役所ら俳優はプロのトイレ清掃員の協力を得て役作りを行っている[16][17]

製作は Master Mind(日本)、スプーン(日本)、ヴェンダース・イメージズ(独)。海外配給はマッチ・ファクトリー、日本国内の配給はビターズ・エンド[18]。124分。

あらすじ

撮影が行われた公共トイレのひとつ(東京都渋谷区)。

東京スカイツリーが近い古びたアパートで独り暮らしをする、中年の寡黙な清掃作業員・平山(役所広司)は、一見、判で押したような日々を送っている。毎朝薄暗いうちに起き、台所で顔を洗い、ワゴン車を運転して仕事場へ向かう。行き先は渋谷区内にある公衆トイレ。それらを次々と回り、隅々まで手際よく磨き上げてゆく。

一緒に働く若い清掃員・タカシ(柄本時生)はどうせすぐ汚れるのだからと作業は適当にこなし、通っているガールズ・バーのアヤ(アオイヤマダ)と深い仲になりたいが金がないとぼやいてばかりいる。平山は意に介さず、ただ一心に自分の持ち場を磨き上げる。作業をつづけていても、誰からも見て見ぬふりをされるような仕事。しかし平山はそれも気にせず、仕事をつづける。仕事中は、ほとんど言葉を発することがない。

それでも、平山は日々の楽しみを数多く持っている。たとえば、移動中の車で聴く古いカセットテープ。どれも少し前の音楽だ。パティ・スミスルー・リードキンクスヴェルヴェット・アンダーグラウンド。彼の部屋にはそんな音楽カセットテープがたくさんある。

休憩時に神社の境内の隅に座ってささやかな昼食をとるときは、境内の樹々を見上げる。その木洩れ日をみて笑みをうかべ、一時代前の小型フィルムカメラを取り出してモノクロ写真を撮る。街の人々は平山をまったく無視して忙しく行き交っているが、ときおり不思議なホームレス風の老人(田中泯)が、平山と目を合わせてくれることも、ずっと気になっている。

仕事が終わると近くの銭湯で身体を洗ったあと、浅草地下商店街の定食屋で安い食事をすませる。休日には行きつけの小さな居酒屋で、客にせがまれて歌う女将(石川さゆり)の声に耳を傾けることもある。家に帰ると、四畳半の部屋で眠くなるまで本を読む。フォークナー野生の棕櫚』、幸田文『木』 、等々…。眠りに落ちた平山の脳裏には、その日に目にした映像の断片がゆらゆら閃きつづけている。樹々の枝から漏れる陽光・街を行き交う人々・あの老人の姿。

ある日、平山の若い姪・ニコ(中野有紗)がアパートへ押しかけてくる。平山の妹(麻生祐未)の娘で、家出してきたという。平山の妹は豊かな暮らしを送っていて、ニコに平山とは世界が違うのだから会ってはならぬと言い渡しているらしい。ニコは平山を説き伏せて仕事場へついてゆく。公衆トイレを一心に清掃してゆく平山の姿にニコは言葉を失うが、休憩時、公園で木洩れ日を見上げる平山の姿を見て、ニコにも笑顔が戻ってくる。しかし平山の妹がニコを連れ戻しにやってくると、平山は捨ててきた自らの過去と向き合うことになる…。

キャスト

スタッフ

  • 監督:ヴィム・ヴェンダース (Wim Wenders)
  • 撮影:フランツ・ルスティグ (Franz Lustig)
  • 編集:トニー・フロッシュハマー (Toni Froschhammer)
  • サウンドデザイン:マティアス・レンペルト(Matthias Lempert)
  • インスタレーション:ドナータ・ヴェンダース (Donata Wenders)
  • 美術:桑島十和子
  • ヘアメイク:勇見勝彦
  • スタイリスト:伊賀大介
  • ロケーションマネージャー:高橋亨
  • キャスティング:元川益暢

評価・受容

主演をつとめた役所広司(2023年)。

この作品はカンヌ国際映画祭で初上映され、欧米ではおおむね好感をもって受けとめられた。イギリスの『ガーディアン』紙は、この映画は感情表現をいささか抑制しすぎて曖昧さが残るものの、役所広司の聡明さ・存在感の強さが都会的な空気をささえていて魅力的な「東京映画」になっていると評した[19]

カンヌ国際映画祭で審査員に加わった台湾の批評家、王信(ワン・シン)[20]はこの作品について、ヴェンダースの代表作のひとつとみなされている『パリ、テキサス』が、より成熟した高いレベルで日本を舞台に再び作り直されたかのようだと評し、芸術というものの本質を純粋な形で表現しきった作品としてヴェンダース生涯の傑作と呼ばれるだろうと絶賛した[21]

アメリカの『ハリウッド・リポーター』誌は、とりわけエンディングの長いショットが、平山の人生への満足と後悔を表現する役所の見事な演技によって驚くべき効果をあげていると指摘[22]。『バラエティ』誌もそのエンディングのショットを中心に論じ、映画の構造はごくシンプルで『ベルリン・天使の詩』のような哲学的な煩悶は登場しないが、そのドキュメンタリー風の撮影手法も相まって、ヴェンダースによる劇映画としてはここ数十年でもっともすぐれた作品になったと称賛した[23]

またアメリカの代表的な映画メディアのひとつ『IndieWire』は、平山の過去を映画の前半ほとんどで伏せたままにするヴェンダースの演出法は、平山の喜びをただのきれい事だと冷笑することなく、彼の存在をありうべき生の姿として差し出すことに成功している、などと評した[24]

一般公開後のレビューでは、『ニューヨーク・タイムズ』紙が映画の中でていねいに反復される「木のイメージ」(スカイツリー、神社境内の樹、夢に現れる木洩れ日、等)に注目し、ヴェンダースがこの映像操作によって、影とともに生きるが深く根を張っている樹木の姿に平山の人生を重ね合わせている、と高く評価した[25]。『フィナンシャル・タイムズ』紙は、この作品が低廉労働を美化しているという見方をしりぞけ、ヴェンダースは物思いにふける平山の寂しい視線を的確にとらえることで、平山が自らの過去に抱く複雑な感情を暗示しており、その陰影に富んだ奥行きの深さがこの作品の美質だと称賛した[26]

日本では、批評家の中条省平が「清冽な美しさに満ちた作品」「必見の一作」と称賛し、とりわけ車と自転車による移動ショットにおいて、ロードムービーの名作で知られたヴェンダースが復活して「かつてのみずみずしさを保ちながら、円熟の味わいを加え、日常生活そのものをロードムーヴィ化している」と評した[27]

一方で英語圏の映画レビューサイト「Rotten Tomatoes」では、一般公開後の2023年12月の時点で、全体として90%以上の高スコアを獲得したものの[28]、脚本の起伏の乏しさや抑揚を欠いた演技を批判する批評家コメントも掲載されている[28]

一般公開から約3か月後の2月18日の時点で、本作の世界興行収入は2430万ドル(約36億円)を超え、ヴェンダース作品としては過去最高の興行成績をあげた作品となっている[29]

受賞

  • 第76回カンヌ国際映画祭(2023年) - 主演男優賞(役所広司)、エキュメニカル審査員賞
  • アジア太平洋映画賞(2023年) - 作品賞 (Best Film)[30]
  • モントクレア映画祭(2023年) - 若手審査員賞 (Junior Jury Prize)[31]
  • 第47回日本アカデミー賞(2024年) - 優秀作品賞、最優秀監督賞(ヴィム・ヴェンダース)、最優秀主演男優賞(役所広司)[32]
  • 第17回アジア・フィルム・アワード(2024年) - 最優秀男優賞(役所広司)[33]

劇中の音楽・書籍

監督のヴィム・ヴェンダース。東京国際映画祭で(2023年)。

音楽

劇中で流れる音楽はヴィム・ヴェンダース自身によって慎重に選ばれ、作品の重要な要素となっている。ともに選曲にかかわった共同脚本の高崎卓馬によると、ヴェンダースは製作の早い段階で「演出効果のために平山が聞くはずのない音楽を使うこと」を自ら封じ、時間をかけて選んでいったという[34]

書籍

平山が手にする文庫本のうち、書影が映されるか題名が言及されるもの。[36]

出典

関連文献

  • 「特集 すばらしき映画人生! ヴィム・ヴェンダースの世界へ」『SWITCH』Vol.41 No.12 2023 12月号、スイッチ・パブリッシング、2023年11月20日、ISBN 978-4-8841-8609-8 

関連項目

外部リンク