53平均律

53平均律: 53-equal temperament)とは、1オクターヴを53の等しいステップに分割した音律である。各ステップは、 ( ) の周波数比率、あるいは 1200/53 ≈ 22.6415 セントである。この音程は時にホルダーのコンマ英語版と呼ばれる。

歴史

この分割への理論的な関心は古代にさかのぼる。中国の音楽理論家である京房(78BC-37BC)は、53個の完全五度の連鎖 が、31オクターヴ にほぼ等しいことを発見した。彼は6桁の精度で差を算出し とした(京房の六十律[1]

その後、同じ発見が、数学者および音楽理論家であるニコラス・メルカトル (Nicholas Mercator, c. 1620-1687) によってなされ、彼はこの値を として正確に算出し、メルカトルのコンマとして知られている[2]。メルカトルのコンマは、約3.6150セント (≈ 1/332 オクターヴ)という小さな値であるが、53平均律は、そのコンマの1/53倍 (≈ 0.0682 セント ≈ 1/315 シントニックコンマ ≈ 1/344 ピタゴラスコンマ)だけ各々の完全五度を補正し平準化する。したがって、53平均律は、すべての実際上の目的に対してピタゴラス音律の拡張と等価といえる。

メルカトルの後、ウィリアム・ホルダー英語版は、1694年の論文で、53平均律が、長三度を1.4セント以内によく近似することを指摘した。したがって、53平均律はまた、 5限界英語版純正律の音程を高い精度で代表する[3][4]。53平均律のこの性質は、より以前に知られていたかもしれない。アイザック・ニュートンの未出版の手稿は、彼が1664-65年頃すでにそれに気づいていたことを示唆する[5]

スケールダイヤグラム

間隔 (steps)324323212414323423212
間隔 (cents)684591684568452345912391684568914568452345
音名C±0C-2D+1D±0D-2E+1E-1F+2E-3F±0F-1G+1G±0G-2A+1A-1A-2B+1B-1C+2B-3C±0
音程 (cents)  0   68 11320427231738543045349858961170277081588397410191087113211551200
音程 (steps)0359121417192022262731343639434548505153

他の音律との比較

この音律における31段の音程がほとんど正確に純正な完全五度と等しいので、理論上この音律は53音まで拡張されたピタゴラス音律の一形体であると考えられる。したがって(実用上)純正な五度や、純正より広い長三度(純正の5:4に対して81:64)、また逆に狭い短三度(6:5と比べ32:27)など、ピタゴラス音律と同じ特性を持つ音程が利用できる。

しかしながら、53平均律は非常に純正音程に近い追加の音程を含んでいる。例えば、17段の音程も長三度だが、純正な音程(5:4)よりもわずか1.4セントだけ狭い音程である。53平均律は、5限界純正律の音程をよく近似する。

第7倍音に関連する純正音程の近似はやや劣るが、7:5の三全音で最大の偏差を持ちつつ、依然として一致を見せる。第11倍音に関連する音程の近似はより劣る。

音程名サイズ (段)サイズ (cents)純正比純正 (cents)偏差
harmonic seventh43973.5857:4968.826-4.759
perfect fifth31701.8873:2701.9550.068
Pythagorean tritone[6]27611.321729:512611.730.409
diatonic tritone26588.67945:32590.2241.544
Pythagorean diminished fifth26588.6791024:729588.27-0.409
septimal tritone26588.6797:5582.512-6.167
classic tritone25566.03825:18568.7172.68
undecimal tritone24543.39611:8551.3187.922
double diminished fifth24543.396512:375539.104-4.292
undecimal augmented fourth24543.39615:11536.951-6.445
acute fourth23520.75527:20519.551-1.203
perfect fourth22498.1134:3498.045-0.068
grave fourth21475.472320:243476.5391.067
septimal narrow fourth21475.47221:16470.781-4.691
classic augmented third20452.83125:96456.9864.156
tridecimal augmented third20452.8313:10454.2141.384
septimal major third19430.1899:7435.0844.895
classic diminished fourth19430.18932:25427.373-2.816
Pythagorean ditone18407.54781:64407.820.273
just major third17384.9065:4386.3141.408
grave major third16362.264100:81364.8072.543
neutral third, tridecimal16362.26416:13359.472-2.792
neutral third, undecimal15339.62311:9347.4087.785
acute minor third15339.623243:200337.148-2.475
just minor third14316.9816:5315.641-1.34
Pythagorean semiditone13294.3432:27294.135-0.205
classic augmented second12271.69875:64274.5822.884
septimal minor third12271.6987:6266.871-4.827
tridecimal diminished third11249.05715:13247.741-1.316
classic diminished third11249.057144:125244.969-4.088
septimal whole tone10226.4158:7231.1744.759
diminished third10226.415256:225223.463-2.953
whole tone, major tone9203.7749:8203.910.136
whole tone, minor tone8181.13210:9182.4041.272
neutral second, greater undecimal7158.49111:10165.0046.514
neutral second, grave whole tone7158.491800:729160.8972.407
neutral second, lesser undecimal7158.49112:11150.637-7.854
neutral second, tridecimal6135.84913:12138.5732.724
neutral second, large limma6135.84927:25133.238-2.611
Pythagorean chromatic semitone5113.2082187:2048113.6850.477
just diatonic semitone5113.20816:15111.731-1.476
major limma490.566135:12892.1791.613
Pythagorean diatonic semitone490.566256:24390.225-0.341
just chromatic semitone367.92525:2470.6722.748
just diesis245.283128:12541.059-4.224
syntonic comma122.64281:8021.506-1.135

緩和

53平均律は、ディエシス (128:125)、7限界のコンマ (64:63)、シントニックコンマ (81:80)を含む音程を緩和していない。

53平均律は、32805:32768(スキスマ、純正5度8個と純正長3度1個を重ねた音程と5オクターヴの差分)、15625:15552(クライスマ英語版、純正短3度を6個重ねた音程と3:1の音程の差分)、121:120(大小2つの11限界の中立2度の差分)、225:224(七限界のクライスマ、16:15の半音の2倍と8:7の全音の差分)、325:324(10:9の小全音の2倍と16:13の中立3度の差分)、352:351(13:11の短3度とピタゴラス音律の短3度の差分)の周波数比を緩和する。

参考文献

関連項目