1966年アメリカグランプリ

1966年アメリカグランプリ (1966 United States Grand Prix) は、1966年のF1世界選手権第8戦として、1966年10月8日ワトキンズ・グレン・グランプリコースで開催された。

アメリカ合衆国 1966年アメリカグランプリ
レース詳細
1966年F1世界選手権全9戦の第8戦
ワトキンズ・グレン(1956–1970)
ワトキンズ・グレン(1956–1970)
日程1966年10月2日
正式名称IX United States Grand Prix
開催地ワトキンズ・グレン・グランプリ・サーキット
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 ニューヨーク州 ワトキンズ・グレン
コース恒久的レース施設
コース長3.78 km (2.35 mi)
レース距離108周 408.2 km (253.8 mi)
決勝日天候晴(ドライ)
ポールポジション
ドライバーブラバム-レプコ
タイム1:08.42
ファステストラップ
ドライバーイギリスの旗 ジョン・サーティースクーパー-マセラティ
タイム1:09.67 (31周目)
決勝順位
優勝ロータス-BRM
2位クーパー-マセラティ
3位クーパー-マセラティ

アメリカグランプリの開催は9回目(1908年から1916年まで断続的に開催されていたアメリカン・グランド・プライズ (American Grand Prize) を含めると16回目)で、ワトキンズ・グレンでの開催は6回目である。レースは全長3.78 km (2.35 mi)のコースを108周する408.2 km (253.6 mi)の距離で行われた。

イギリス出身のジム・クラークロータス・43英語版で優勝し、通算20勝目を挙げた。オーストリア出身のヨッヘン・リントが2位、イギリス出身のジョン・サーティースが3位と、表彰台の残りの2つはクーパー・T81を走らせるクーパー勢が占めた。

ブラバム勢はともにリタイアに終わったが、ロレンツォ・バンディーニフェラーリ・312もエンジントラブルでリタイアに終わったため、最終戦メキシコグランプリを待たずにブラバムのコンストラクターズチャンピオンが決定した。ジャック・ブラバムは、自身のチームでダブルタイトルを獲得した最初の(そして唯一の)ドライバーとなった。

レース概要

1966年はほとんどのチームが新しい3リッター規定への対応に苦労したが、ジャック・ブラバムはそれに対応したシンプルで軽量なマシンであるブラバム・BT19英語版チャンピオンを獲得した。それはブラバムの3度目のドライバーズタイトルであり、そして自身のチームでチャンピオンを獲得した最初のドライバーとなった。しかし、本レースは強力だが信頼性の低いBRMH16エンジンを搭載したロータスジム・クラークが、ワトキンス・グレンで初優勝を飾った。ロレンツォ・バンディーニとブラバムがリタイアした後にリードを奪い、クーパーヨッヘン・リントを抑えてトップでチェッカーフラッグを受け、不運なH16エンジンの唯一の勝利を記録した。そしてF1史上最多気筒数エンジンによる優勝でもあった[1][注 1]

この年、ワトキンス・グレン・グランプリ・コーポレーションは従来のスターティングマネーのシステムから脱却し、エントリーされた20台に対し2,800ドル、優勝者には20,000ドルの賞金が与えられた。賞金総額102,400ドルはF1世界選手権の中で最も高額で、優勝賞金は他のすべてのレースの優勝賞金を合計した金額よりも多かった! レースの責任者を務めるキャメロン・アーゲットシンガー英語版は、「当時、10万ドルは魔法の数字だった」「アメリカのスポーツファンに『ビッグリーグ』と呼ばれる数字だった」と語った。ヨーロッパのチームマネージャーやオーナーたちがこの取り決めを熱心に受け入れたことは、レースミーティングをどのように促進するかという点で、グランプリの確立に大きな哲学的変化をもたらした。

この賞金制度により完走が2つの意味で重要なものとなり、クラークはBRMのH16エンジンでいかに速く走れるかを見つけるまで、より信頼性が高い2リットルのクライマックスV8エンジンを使おうと考えた。バンディーニのフェラーリ・3123バルブV12[2])は、グレンで初めて120 mph (190 km/h)の壁を超える1分08秒67をマークした。金曜に1分09秒を下回ったのはバンディーニの他、ジョン・サーティースグラハム・ヒルの2人のみだった。

土曜日のセッション終了間際にブラバムが1分08秒42を出し、ポールポジションを獲得した。クラークは1分08秒53で2番手とフロントローを得た。クラークは自己ベストを出した直後に背後で異音を聞き、ピットへ戻りマシンを止めると、H16エンジンの排気口からオイルが漏れていた。BRMは予備のH16エンジンを提供した。ロータスのメカニックは夜間に新しいエンジンをクラークのマシンに搭載した。

日曜日は涼しく乾燥し、制作の最終段階にあった映画「グラン・プリ」のジョン・フランケンハイマー監督、俳優のジェームズ・ガーナー(主役のピート・アロン役)、三船敏郎(矢村[注 2]役)、ジェシカ・ウォルター(パット・ストッダード役)らを含めた75,000人の観衆が詰めかけた。クラークはレース開始1時間前になってもクライマックスとBRMのどちらのエンジンを使うか決めかねていたが、最終的にBRMの予備のH16エンジンを搭載した43を選択した。しかしそれもまた、ウォームアップを始める前にオイルがダミーグリッドに漏れていたので、メカニックが締め付け作業を行った。レースが始まると、バンディーニが2列目から好スタートを決めてトップに立ち、クラーク、リッチー・ギンサー、ブラバム、サーティース、ジャッキー・スチュワート、ヒル、デニス・ハルムの順に続いた。

ギンサーはギアボックスの不調ですぐに後退したが[3]、ブラバムは調子を取り戻して順位を上げ、4周目の「ザ・90」でクラークを抜き、10周目にバンディーニを抜いてトップに立った。サーティースもクラークを抜いて3位に浮上しブラバムとバンディーニを追うが、16周目にクラークのチームメイトであるピーター・アランデル英語版が周回遅れになろうとしていた。ブラバムとバンディーニは「ザ・90」でアランデルを周回遅れにしたが、サーティースは抜けず後ろにとどまった。彼はホームストレートでアランデルを捉え、再びエセスでオーバーテイクを試みたが、両者は接触してコースアウトを喫し、芝生を横切ってコースへ戻りピットへ向かった。サーティースはアランデルに抗議するためにロータスのピットへ向かうが、ロータスのメカニックに制止された。そこで数分を無駄にした後、彼は2周半遅れの13位で復帰した。

20周目にバンディーニはブラバムからリードを取り戻して差を広げていくが、34周目にエンジンブローを起こしてリタイアし、ブラバムはクラークを大きくリードした。一方、サーティースはアランデルとの接触の件でまだ怒りが収まらなかったが、トラック上で最速のマシンであった。彼は遅れを1周取り戻し、31周目にはファステストラップを記録した。レースが半分を過ぎた56周目にブラバムのエンジンもブローした! クラークは自分がトップに立ったことに驚いた。クラークはリントを1分近くリードしていた。サーティースはその後も猛追を見せて2周遅れを挽回し、ブルース・マクラーレンジョー・シフェールを抜いて3位に浮上した。

クラークは残りの周回で無理をせず、BRMのH16エンジンに初めての(そして唯一の)勝利をもたらした。リントは28.5秒後に燃料切れで失速し、最終ラップを終えるのに2分以上を要したが、首位クラークのラップタイムの2倍以上だったためカウントされなかった。彼は3位となったチームメイトのサーティースと同一ラップで2位を守った。クラークがグレンで初勝利を挙げ、ヒルのグレンでの連勝を3でストップさせたが、BRMエンジンは4年連続でアメリカGPを制した。

ホンダロニー・バックナム用のRA273が完成してようやく2台体制を敷けた。ギンサーは規定周回数不足、バックナムは21周目に7位まで順位を上げたが、排気管の破損でリタイアに終わった。パワーは他車より高かったものの、まだ熟成が不足していた[3]

エントリーリスト

チームNo.ドライバーコンストラクターシャシーエンジンタイヤ
チーム・ロータス1 ジム・クラークロータス43BRM P75 3.0L H16F
2 ピーター・アランデル33クライマックス FWMV 2.0L V8
11 ペドロ・ロドリゲスBRM P60 1.9L V8
オーウェン・レーシング・オーガニゼーション3 グラハム・ヒルBRMP83BRM P75 3.0L H16D
4 ジャッキー・スチュワート
ブラバム・レーシング・オーガニゼーション5 ジャック・ブラバムブラバムBT20レプコ 620 3.0L V8G
6 デニス・ハルム
クーパー・カー・カンパニー7 ジョン・サーティースクーパーT81マセラティ 9/F1 3.0L V12D
8 ヨッヘン・リント
21 モイセス・ソラーナ 1
スクーデリア・フェラーリ SpA SEFAC9 ロレンツォ・バンディーニフェラーリ312/66フェラーリ 218 3.0L V12F
バーナード・ホワイト・レーシング10 イネス・アイルランドBRMP261BRM P60 1.9L V8F
ホンダ・R&D・カンパニー12 リッチー・ギンサーホンダRA273ホンダ RA273E 3.0L V12G
14 ロニー・バックナム
アングロ・アメリカン・レーサーズ15 ダン・ガーニーイーグルT1Gウェスレイク 58 3.0L V12G
16 ボブ・ボンドゥラントT1Fクライマックス FPF 2.8L L4
ブルース・マクラーレン・モーターレーシング17 ブルース・マクラーレンマクラーレンM2Bフォード 406 3.0L V8F
レグ・パーネル・レーシング18 マイク・スペンスロータス25BRM P56 2.0L V8F
R.R.C. ウォーカー・レーシングチーム19 ジョー・シフェールクーパーT81マセラティ 9/F1 3.0L V12D
アングロ・スイッセ・レーシングチーム22 ヨアキム・ボニエクーパーT81マセラティ 9/F1 3.0L V12F
ソース:[4]
追記
  • ^1 - マシンが準備できず[5]

結果

予選

順位No.ドライバーコンストラクタータイムグリッド
15 ジャック・ブラバムブラバム-レプコ1:08.42-1
21 ジム・クラークロータス-BRM1:08.53+0.112
39 ロレンツォ・バンディーニフェラーリ1:08.57+0.153
47 ジョン・サーティースクーパー-マセラティ1:08.73+0.314
53 グラハム・ヒルBRM1:08.87+0.455
64 ジャッキー・スチュワートBRM1:09.17+0.756
76 デニス・ハルムブラバム-レプコ1:09.28+0.867
812 リッチー・ギンサーホンダ1:09.37+0.958
98 ヨッヘン・リントクーパー-マセラティ1:09.63+1.219
1011 ペドロ・ロドリゲスロータス-BRM1:10.40+1.9810
1117 ブルース・マクラーレンマクラーレン-フォード1:10.57+2.1511
1218 マイク・スペンスロータス-BRM1:10.73+2.3112
1319 ジョー・シフェールクーパー-マセラティ1:10.97+2.5513
1415 ダン・ガーニーイーグル-ウェスレイク1:11.03+2.6114
1522 ヨアキム・ボニエクーパー-マセラティ1:11.40+2.9815
1616 ボブ・ボンドゥラントイーグル-クライマックス1:12.40+3.9816
1710 イネス・アイルランドBRM1:12.63+4.2117
1814 ロニー・バックナムホンダ1:12.70+4.2818
192 ピーター・アランデルロータス-クライマックスNo Time-19
ソース:[6]

決勝

順位No.ドライバーコンストラクター周回数タイム/リタイア原因グリッドポイント
11 ジム・クラークロータス-BRM1082:09:40.1129
28 ヨッヘン・リントクーパー-マセラティ107燃料切れ96
37 ジョン・サーティースクーパー-マセラティ107+1 Lap44
419 ジョー・シフェールクーパー-マセラティ105+3 Laps133
517 ブルース・マクラーレンマクラーレン-フォード105+3 Laps112
62 ピーター・アランデルロータス-クライマックス101+7 Laps191
Ret10 イネス・アイルランドBRM96オルタネーター17
NC12 リッチー・ギンサーホンダ81規定周回数不足8
Ret18 マイク・スペンスロータス-BRM74イグニッション12
Ret14 ロニー・バックナムホンダ58エンジン18
NC22 ヨアキム・ボニエクーパー-マセラティ57規定周回数不足15
Ret5 ジャック・ブラバムブラバム-レプコ55エンジン1
Ret4 ジャッキー・スチュワートBRM53エンジン6
Ret3 グラハム・ヒルBRM52ディファレンシャル5
Ret9 ロレンツォ・バンディーニフェラーリ34エンジン3
Ret6 デニス・ハルムブラバム-レプコ18エンジン7
Ret11 ペドロ・ロドリゲスロータス-BRM13スターターリング10
Ret15 ダン・ガーニーイーグル-ウェスレイク13クラッチ14
DSQ16 ボブ・ボンドゥラントイーグル-クライマックス5失格(押しがけ)16
ソース:[7]
ファステストラップ[8]
ラップリーダー[9]

第8戦終了時点のランキング

コンストラクターズ・チャンピオンシップ
順位コンストラクターポイント
1 ブラバム-レプコ40 (43)
2 フェラーリ31 (32)
13 クーパー-マセラティ24 (26)
14 BRM22
15 ロータス-BRM13
ソース: [10]

  • : トップ5のみ表示。ベスト5戦のみがカウントされる。ポイントは有効ポイント、括弧内は総獲得ポイント。

脚注

注釈

出典

参照文献

  • en:1966 United States Grand Prix(2019年3月21日 12:29:54(UTC))より翻訳
  • Doug Nye (1978). The United States Grand Prix and Grand Prize Races, 1908-1977. B. T. Batsford. ISBN 0-7134-1263-1
  • Henry N. Manney (December, 1966). "U. S. Grand Prix". Road & Track, 36-41.
  • 林信次『F1全史 1966-1970 [3リッターF1の開幕/ホンダ挑戦期の終わり]』ニューズ出版、1995年。ISBN 4-938495-06-6 
  • アラン・ヘンリー『チーム・フェラーリの全て』早川麻百合+島江政弘(訳)、CBS・ソニー出版、1989年12月。ISBN 4-7897-0491-2 
  • 中村良夫『F-1グランプリ ホンダF-1と共に 1963-1968 (愛蔵版)』三樹書房、1998年。ISBN 4-89522-233-0 

外部リンク

前戦
1966年イタリアグランプリ
FIA F1世界選手権
1966年シーズン
次戦
1966年メキシコグランプリ
前回開催
1965年アメリカグランプリ
アメリカグランプリ次回開催
1967年アメリカグランプリ