転車台

車両の向きを変える装置

転車台(てんしゃだい、: turntable ターンテーブル)とは、車両の方向を変えるための機械。一般に地上に置かれる。

自動車用の転車台が設置された立体駐車場
鉄道車両用の転車台が設置された扇形機関庫

運転台が1か所に設けてある鉄道車両(特に蒸気機関車およびEF55形などの片運転台形機関車)や自動車の場合、少ないスペースで運転台を進行方向に向ける際に必要な設備である。

鉄道用

概要

下路式転車台(JR東海名古屋車両区
上路式転車台で転向中のSL(小樽市総合博物館
上路式転車台(登録有形文化財若桜駅
旧新橋停車場跡発掘された日本最古の転車台跡(基礎部分)

鉄道用の転車台は、主に片側にしか運転台がない車両や、逆機では性能が限られている機関車を載せて回転させ、車両の向きを進行方向に向けるために用いられる。一般に蒸気機関車 (SL) の方向転換(転向)に用いるものとして知られており、SLの全盛期には各地の車両基地(機関区)や拠点駅、起終点駅に必ず設けられていたが、SLが廃止され転向の必要がない電気機関車 (EL) やディーゼル機関車 (DL) などの増加に伴い、不要となって撤去され、あまり見られなくなってきた。撤去されないまま放置されていた転車台がSLの復活運転用として整備され、再使用されている例もある。また、電車気動車・機関車に改造を施す際や、運用の都合や配置転換などに伴い、車両単独または編成すべての向きを変える必要が生じることもあるため、工場や車両基地・運転所などでは現在でも使用されるほか、旭川運転所のように移転後に新たに設置される事例もある[注釈 1]

アメリカなどでは、DLにおいても片側にのみ運転台を備えている車両が広く用いられているため、現代においてもなおよく用いられる設備である。

SLの基地(機関区・機関庫)においては、転車台の周囲から放射状に線路を伸ばし、その先に機関車の車庫や修理・点検設備として用いる扇形庫を設置した例が広く見られる。

転車台の上には架線が張られていないことが一般的であり、電気車(ELと電車)の転向を行う必要がある場合は、他の動力車を用いるなどして転車台に出し入れする必要がある。ただし、EF55形のように転車台で転向を行う前提のELもあるうえ、スペースの問題からどうしても扇形庫にELを留置せざるを得なくなるなどの事情から、東海道本線電化時の浜松機関区(現・浜松運輸区[1]や高崎運転所(現・ぐんま車両センター)、水上駅のように、転車台上空にも架線を張ってELの自走を可能にした例もある。

転車台には、取っ手を人間が手で押して回転させるものと、電動機圧縮空気などによる動力で回転させるものがある。主桁(後述)の回転中心に車両を跨ぐ門形の構造物があり、その上部に電線が引かれている場合があるが、それは車両へ電力を供給する架線ではなく、回転式の集電装置を介して電気動力式の転車台自体を動かすためのものである。

構造

転車台は、レールとそれを支えて回転する部分(主)と、回転させるための土台となる地面を掘った窪み(転車台坑、ピット)からなる。

主桁上にあるレールの高さを転車台周囲のレールと揃える必要性があるため、転車台坑は周辺の地面より掘り下げられている。転車台坑中心には主桁の回転中心となる中央支承があり、ピット内の外周部には円形にレールが敷かれ、車両が載った主桁の重量の一部を負担しつつ、その回転を案内する。

主桁は、構造的にはガーダー橋と全く同一であり、このため鉄道橋の一部として取り扱われることがある。

主桁に対するレールの配置により、上路式(デッキガーダー橋)と下路式(スルーガーダー橋)が存在する。上路式ではレールを桁材の上に配置するのに対し、下路式では桁材の間の横の上に設置する。このため、下路式では桁に対してレール面を低く設定でき、転車台坑を浅くすることができる。転車台坑が深いと建設工事の費用がかさむうえに雨水の排水の問題もあるため、転車台坑の面では下路式の方が上路式に比べて優れている。

一方、下路式では桁の間にレールを敷くため、転車台を使用する車両の最大横幅(車両限界)以上に桁の間隔を広く取らなければ、車両が桁に抵触してしまう。桁の間隔を広くするとその分だけ横梁の構造も頑丈に作る必要があり、結果的に主桁は大型化して主桁の製作に費用がかさむため、この面では上路式の方が優れている。

日本で実際に用いられたものは上路式の方が圧倒的に多いが、下路式のものも存在していた。

主桁の設計としては、バランスト形と三点支持形が存在する。

バランスト形では車両が上に載っていないときは、主桁は中央支承のみで支えられ、周囲の円形レールと主桁端の車輪は接触せず浮いている。車両が転車台に進入すると、その重みによって主桁が下がり、円形レールと桁端車輪が接触して重量を負担するようになる。しかし、車両の重心がちょうど転車台の回転中心に一致する位置に車両を停めると、再び中央支承のみで重量を支えるようになり、この状態で回転させる。この方式では、桁端車輪の分の摩擦がないために転車台を軽く回すことができ、動力式でも小さな動力のもので回転させることができる。

一方、三点支持形では常に円形レールと桁端車輪が接触しており、回転する時にも重量を負担しているため、抵抗が大きく大きな動力を必要とする。

ただし、バランスト形では車両の重心位置を回転中心に揃えて停車させることが難しいという問題がある。例えば、C62形の場合、炭水車に一杯に石炭を搭載している状態ならば第一従輪の上あたりに重心があるため、日本国有鉄道(国鉄)の大きな機関区や駅で標準的に用いられていた直径20メートルの転車台でも重心位置をきちんと揃えて回転させることができた。しかし、石炭や水を消費した状態では重心が前に移動し、重心から炭水車後端車輪までの長さが11メートルを超え、バランスをとった状態で回転させることが不可能となる。バランスの崩れた状態では、バランスト形の転車台は三点支持形のものより回転抵抗が大きくなる。この問題の対策として新設計の24メートル転車台が登場したが、既存の転車台の改修には転車台坑の拡大を中心に多大な費用を要することから、あまり広まらなかった。このため、後年三点支持形に改造したものが現れている。

特殊な用例

貨車の転回に用いる小型の転車台の中には、ダイヤモンドクロッシングのように十字形に2本の線路を交差させて設置したものがある。また、こうしたものの中には転車台坑を全面に渡って板で覆ったものがある。日本では唯一武豊港駅跡に保存されており、2009年平成21年)1月に国の登録有形文化財に登録されている。

ロシアのクラスノヤルスク水力発電所には、世界最大シップリフト用転車台が設けられている。

フランスでは、スペース不足の問題から主桁の3分の1程の点に回転中心を設けた、非対称な転車台が存在していた。当然のことながら、こうした転車台では360度回転させることはできない。

イギリスベントナー駅英語版ベンブリッジ駅英語版には、機回し線を振り分けるために通常の分岐器の代わりに小型の転車台が存在していた。これは、トンネルを出てすぐの場所に駅が設けられたため、通常の分岐器を使うとトンネルの出口までの距離が近くなりすぎ、機関車が機回しをしようとすると一旦トンネルに入らなければならなくなったからである。のちにこの転車台は三分岐式の分岐器に置き換えられたが、機関車は機回しに際して一旦トンネルに入らなければならなくなった。

列車砲用ターンテーブルの例、
転車台上にあるのがドイツ軍の24 cm列車砲

遊園地ではあるが、埼玉県東武動物公園内を走る鉄道「パークライン」や、西平畑公園の「ふるさと鉄道」には、複線の転車台がある。終端駅における転向に特化したからこそできたものであり、転向と同時に機回し線に転線する。

伊予鉄道坊っちゃん列車については、転車台を設けず、機関車の下部に油圧ジャッキが内蔵されており、機関車自体を持ち上げた後に人力で回転させて方向転換する方法が用いられている[2]古町駅道後温泉駅松山市駅前停留場で見られる。この方法は一部の保線用モーターカー軌陸車にも利用されており、軌陸車では踏切などから鉄軌条へ入線する際にも用いられている。

過去に軍事用として列車砲を旋回させ、射角を得る砲座として転車台が利用されていた。この場合、後退防止用として転車台に砲の反動を吸収するため、連結器と直結した緩衝装置を備えていることが多い。恒久陣地要塞に設置される物の中には天蓋式に装甲ベトンで転車台自体を覆い、防御力を高めた事例もある。他にドイツ国防軍などでは「フェーゲレ・ターンテーブル(Vögele Drehscheibe、フェーゲレ・ドレーシャイベ)」のように、前線で列車砲を展開させるための組み立て式器材として転車台が制式化されていた例もある。

現役で稼動する転車台のある駅・運行列車などの一覧

主に営業運転用車両に使用される転車台を有する駅を取り上げる。このほか、保線保守用車両のみが使用する転車台がある場所もある(川越富洲原駅白塚駅近鉄名古屋線) など)。

稼働していないが転車台施設が現存する駅

稼働する転車台を保有する車両基地一覧

稼働するか不明だが転車台が現存・所有している駅・車両基地など

  • 金沢総合車両所

鉄道保存施設・遊園地

稼働するもの

※鉄道施設として現役のものは、#現役で稼動する転車台のある駅・運行列車等一覧および#稼働する転車台を保有する車両基地一覧を参照。

稼働しないもの

台数の統計

年度台数
1918年度232
1920年度252
1922年度265
1924年度303
1926年度327
1928年度349
1930年度374
1932年度394
1934年度411
1936年度435
  • 鉄道院年報、鉄道院鉄道統計資料、鉄道省鉄道統計資料

自動車用

バス路線の起終点の駐車場操車場において、スペースが狭すぎて後退ないしはUターンなど通常の方法による車両の転向ができない場合に設置される。車両を転車台上に乗せ、スイッチを運転席から操作して作動させる。スイッチは台上に設けられている紐スイッチを使用する方法と運転席から遠隔操作する方法がある。また、地上係員が転回操作を行うこともある。東急玉川線の渋谷駅跡は、バス乗り場に転換されたが、やはり狭すぎたためにこの方法で転向していた。中にはターンテーブル自体に動力がなく、バスの後輪駆動力を利用して回転させるタイプのものも存在した。

また、タワー型立体駐車場の多く(タワー内部に転向機能を備えないもの)にも普通・小型・軽自動車向けの転車台が設備されている。この場合の転向操作は駐車場に常駐する係員が行う方式が多いが、月極賃貸専用あるいは企業従業員などの専用駐車場の一部には、自動車の運転者が一旦降車して操作する方式を採っている箇所もある。

フェリーの車両甲板に設置される場合もある。これは船尾側だけにランプウェイが設置されているような船において、船内で自動車が転向して下船することが難しい場合に使用される。

さまざまな転車台

脚注

注釈

出典

参考文献

  • 中川浩一「蒸気機関車に欠かせない舞台装置 転車台抄論」『鉄道ピクトリアル』2008年6月号 (No.804) pp.65 – 71 電気車研究会

関連項目

外部リンク

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