親ガチャ

日本のインターネットスラング

親ガチャ(おやガチャ)は、生まれもった容姿や能力、家庭環境によって人生が大きく左右されるという認識に立ち、「生まれてくる子供は親を選べない」ことを、スマホゲームの「ガチャ」 に例えた日本インターネットスラング[1][2][3]

経緯

2015年頃からスマホゲームの流行とともに「親ガチャ」という言葉がネット上で流行した[4]。当時は愚痴を言う感覚で使う自虐的なスラングであったが、2021年9月以降、「親ガチャ」は毒親経済格差について論じるシリアスな言葉に変容した。きっかけとなったのは現代ビジネスで配信された土井隆義の記事であった。学生たちが使う「親ガチャ」「身長ガチャ」「容姿ガチャ」という言葉に着目し、若者の心理と社会背景を分析した論考で、記事が公開されるとSNS上で論争が巻き起こった[4][5]。その後、多くのネット記事やテレビの情報番組に取り上げられたこともあり、同年のユーキャン新語・流行語大賞のトップテンに選出され[6]、同年の大辞泉が選ぶ新語大賞では大賞となった[7]。  

論評・分析

親ガチャは当たりではなく、ハズレと思っている子ども側から語られがちである[8]。親ガチャには環境要因(育ち)だけではなく遺伝的要因(生まれ)についても言われることがある[2][3]。特に子供側の観点から、自身の能力や環境に対する諦めや苛立ち、思い通りにうまくいかない原因を「ガチャに外れた」と例え、生まれた時点で「アタリかハズレは運次第である」という意味が込められている[9][10][11][12]

教育社会学においては、家庭の経済資本や文化資本社会関係資本が子供の学力、ひいてはその後の人生に大きな影響を与える傾向があることは「再生産」として理論化されている。一方、親ガチャ論はこれらの環境的要素のみに限らず、容姿や知能、身体能力など、遺伝的要素も含めた概念である点が従来の議論とは異なる[2][13]

流行の背景として、経済格差の固定化が指摘されている[14]。また、「努力は報われる」というメリトクラシー(能力主義)を批判するマイケル・サンデルらの影響で、「努力不足」「甘えるな」といった自己責任論への反発が強まっていたことも挙げられる[9]。しかし、「親ガチャ」という考え方について、厳然たる競争の勝ち負けを受け入れられない人間我儘として片付けたり、完全な環境が与えられなければ努力できない本人の甘えとする批判もまた数多く存在する[15]

読売新聞は、2022年2月12日から4月4日までの「親ガチャ」という言葉が含まれる1万8232ツイートを収集し、「親ガチャ」という言葉と一緒に語られた言葉を使用頻度順にまとめた。最も多く使われた言葉は「失敗」で、同じような意味で「ハズレ」も多く使われていた。虐待など深刻な親子関係に言及するツイートが多かった一方で「成功」も上位に入り、親への感謝を語ったツイートもあった。土井隆義は「この言葉は親を責める言葉ではなく、子が自分を守る言葉だ」と指摘し、「自分の不遇を宿命としてとらえる世界観が透けて見える。自分語りに終始していて、社会的な言葉でない」「ハズレの親の存在や、格差は社会的な問題としてとらえるべきなのに、ガス抜きをして、個人の問題に置き換えてしまう」と語った[16]

親ガチャと機能不全家族

「親ガチャ」外れの例・家庭の治安差

例として、虐待過干渉等の仕打ちを子供に与えたり、家庭に影響を与えるレベルの借金DV精神疾患や非倫理的な逸脱行動新興宗教信者などの要素がある親が挙げられることがある[17][18]

富の差異ばかり注目されるが、親ガチャとは実際には裕福さより、家庭内の治安の良さや過ごしやすさ心身共に健康に生きられる家庭であるかが重視される。[要出典]裕福な親でも、家庭内で殴る蹴るなどの身体的虐待、怒鳴り・罵倒人格否定や存在が否定される心理的虐待性的虐待宗教二世で見られるように適切な養育や現代医療を放棄されるネグレクト宗教虐待)、子供には手を出さなくても両親間でDVが存在する「面前DV」という心理的虐待の一種がある家庭に産まれた場合等を、親ガチャ外れだと言う人もいる[19][18]

毒親家庭・アダルトチルドレンや不良への成長

薬物中毒アルコール中毒ギャンブル依存症の親、人格破綻をしている親、子に暴力をふるう親は「毒親」とされる。毒親による精神的暴力や過度な支配は子供のトラウマになる。これらの家庭は機能不全家族と呼ばれる。[要出典]機能不全家族で育った子は、本来の年相応の言動が許されない状況で育っていくため、他人の顔色や迷惑を過剰に気にする・良い子でいようとする・自己肯定感が異常に低くて生き辛さを感じる・ストレス発散法がアディクションで特定の対象への依存に走りやすいなど、これらの傾向を持つ「アダルトチルドレン[20]や幼少期からヤンキー不良になることがある、という主張もある[21]

親のロールモデルの不在による機能不全家族の連鎖

親ガチャ外れと言われる機能不全家庭に育った人間は、彼らにとって「母親」「父親」のロールモデルは毒親である自分の両親しかおらず、「普通の親子関係」を知らないために結婚・出産で自分の家庭を作るとき、新たな機能不全家族を誕生させやすい傾向にある、という主張もある。[要出典]このように場合によっては、何世代も前から続いている機能不全家族の再生産という悪循環にはまっていることもある、という主張もある[22][信頼性要検証]

著名人の反応

  • 岸田文雄(第100・101代内閣総理大臣)は「親ガチャ」の流行について、「寂しく、悲しいことだ。子育て世帯をしっかり支える施策を用意し、格差をなくさなければならない」「日本の子供たちに未来に希望が持てるような教育の環境整備をしっかりと進めたい」と述べている[23]
  • 橋下徹(タレント、弁護士、元大阪府知事)は「親の立場からすると、子どもに“親ガチャ”なんて言われたら辛い」とした上で、「本当に家庭環境が厳しい子どもは、そういうことも言えないと思う」「虐待などに苦しみ、命を落とす子どもたちもいる。そこはやはり行政がサポートする体制を作らなければいけない」と述べ、親についても「子どもを育てるにあたっての一定の知識とか意識のハードルを設ける必要もあると思う」と語った[24]
  • 乙武洋匡は、「私は『肉体ガチャ』に外れた。きっと他のガチャに外れた人もいるだろう」「私は、どんなガチャを引いても豊かに生きられる社会にしたい。それには、とにかく選択肢を増やすこと」と述べている[25]
  • 石原伸晃(元・自民党幹事長、石原慎太郎の長男)は「親ガチャという概念も現実も、この国からなくしていかなければなりません」とツイートした[26]
  • 高須幹弥高須クリニック名古屋院院長、高須克弥の三男)はYouTubeにて、Instagramフォロワーからの「親ガチャについてどう思いますか?」という質問に対し、「親ガチャは存在します」と述べた上で、「親ガチャって言葉を使うだけで他人からの評価が下がってしまう」などと、他責的な印象で評価が下がることを危惧する旨を回答した[27][28]

類似のスラング

子ガチャ

逆に親目線から、どのような資質や能力をもった子供が産まれるか、どう育つか予想できないことを例える「子ガチャ」とのスラングある。こちらはイメージ通り、又はイメージより優れた子が生まれた場合を「当たり」と表する[29][30][31][10]

他の類似のスラング

これに限らず、「自分にコントロールできない要素」で人生が決まることを意味する俗語として「○○ガチャ」がある(国ガチャ、身長ガチャ、顔面ガチャ、配属ガチャ、自治体ガチャ、先生ガチャなど)[32][33][34][35][36]

関連項目

脚注