相変化材料(そうへんかざいりょう、phase-change material (PCM))は、相変化時に大きなエネルギーの放出または吸収を行い、利用可能な程度の発熱または冷却を行うことができる物質の総称である。
一般的に「相変化」とは、物質の状態の変化(例えば固体から液体、液体から気体への変化)のことを指す。また、ある結晶構造に適合する状態から別の結晶構造に適合する状態への変化のような、非古典的な物質の状態の変化を指す場合もある。固体から液体への変化、またはその逆の変化によって放出・吸収されるエネルギー、すなわち融解熱は、一般に顕熱よりも遥かに大きい。例えば、水の温度を1度上げるのに必要なエネルギーは約4.2J/gであるが、氷を溶かすのに必要なエネルギーは333.6J/gである。氷・水は古代から使われてきたPCMであり、少なくともアケメネス朝の時代から、冬に蓄えた氷を、夏に冷房のために使うということが行われてきた。
相変化温度(PCT)で融解・凝固することにより、PCMは顕熱での貯蔵に比べて大量のエネルギーを吸収・放出することができる。材料が固体から液体に変化するとき、またはその逆のとき、あるいは材料の内部構造が変化するとき、熱が吸収または放出される。そのため、PCMは潜熱蓄熱材(LHS)とも呼ばれる。
PCMには、石油・植物・動物由来の有機材料と、天然塩などに由来する塩水和物の主に2種類がある。この他、固体から固体への相変化を利用したPCMもある。
PCMは、エネルギーの貯蔵や安定した温度の供給のために使われており、後者の用途として、繰り返し利用可能な携帯カイロ、ネッククーラーなどの冷却グッズ、精密機器の冷却などがある。
PCMの最も大きな潜在的市場は、建物の冷暖房への利用である。再生可能エネルギーによる発電は、電力の供給が断続的もしくは不安定であり、また、需要に合わせて供給量を増減させるのが難しい。例えば、太陽光発電の供給のピークである昼間にPCMにエネルギーを蓄積し、需要のピークである夕方から夜に放出するということが考えられる。
潜熱蓄熱は、液体→固体、固体→液体、固体→気体、液体→気体のような物質の状態の変化によって行われる。しかし、PCMとして実用的であるのは、固体→液体、液体→固体の相変化のみである。液体→気体の相変化は、固体→液体の相変化よりも蓄えられる熱量が多いが、気体の状態になると体積が大きくなるため、実用的ではない。固体-固体の相変化は一般的に非常に遅く、蓄えられる熱量も比較的少ない。以下、固体-液体PCMについて説明する。
固体の状態のPCMは、顕熱蓄熱材(SHS)と同様に、熱を吸収すると温度が上昇する。しかし、PCMが相変化温度(融点)に達すると、全て溶けきるまで温度が一定で、大量の熱を吸収する。逆に、液体の状態のPCMの周辺の温度が下がると、PCMは凝固し、蓄えていた潜熱を放出する。多くのPCMが、-5℃から190℃までのあらゆる温度帯で利用可能である[1]。石の比熱容量が1kJ/kg℃程度なのに対し、PCMの中には、200kJ/kg℃以上の比熱容量を持つものもある。しかし、石の密度はPCMよりも遥かに大きいため、この比熱容量の差はいくらか相殺される。
主としてパラフィン(CnH2n+2)と脂質だが、糖アルコールも含まれる[3][4][5]。
塩水和物(MxNy·nH2O)が使用される[8]。
多くの天然材料には吸湿性があり、水の吸収・放出の際にも液体-気体の相変化があり、熱が吸収・放出される。この過程で放出・吸収されるエネルギーは少量だが、表面積が大きいため、吸湿性材料を壁などに使用することで、かなりの暖房・冷房が可能になる。
特定の温度で、結晶構造の格子配置が変化する際に大きな潜熱の吸収・放出が行われる材料。固体-液体PCMと異なり、過冷却を防ぐための核生成が不要となる。また、固体から固体への相変化であるため、PCMの外観に目に見える変化がなく、液体の取り扱いに伴う漏れ・封じ込めなどの問題が生じない。固体-固体PCMの適用温度範囲は-50 °C から175 °Cまでである[14]。
PCMの用途として以下のものが挙げられる[1][15]が、これに限られるものではない。
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