特殊関数

解析学、関数解析学、可積分系、物理学、その他の応用分野でよく使われる数学関数
特殊函数から転送)

特殊関数(とくしゅかんすう、: special functions)は、何らかの名前や記法が定着している関数であり、解析学関数解析学可積分系物理学、その他の応用分野でよく使われる関数であることが多い[1]

何が特殊関数であるかのはっきりした定義は存在しないが[1]、しばしば特殊関数として扱われるものには、ガンマ関数ベータ関数エアリー関数ベッセル関数[2][3]ゼータ関数[4][5]楕円関数[6][7]ルジャンドル関数誤差関数超幾何関数[8][9][10][11][12][13]直交多項式[14][15][16][17] (ラゲール多項式エルミート多項式が有名) などがある。一般には初等関数の対義語ではなく、ある関数が初等関数であって同時に特殊関数とされる場合もある。

特殊関数の一覧

特殊関数の多くは、微分方程式の解 (つまり可積分系の厳密解[18]) や初等関数積分 (誤差関数楕円積分[6][7]など) として現れる[1]。したがって、積分法の一覧[19]には特殊関数の記述がよく見られ、特殊関数の一覧[20]には最も重要な積分、すなわちその特殊関数の積分形式の表現が含まれていることが多い。

MATLAB[21]Maple[22]Mathematica[23]などの科学技術計算・数値解析のための言語は、多くの特殊関数を認識する。ただし、そのようなシステムが常に効率的なアルゴリズムで計算(評価)するとは限らない(特に複素平面の場合)。

特殊関数の記法

多くの場合、特殊関数には標準的記法があり、関数の名前、添え字(もしあれば)、括弧開き、引数列(コンマで区切る)、括弧閉じの順に記述する。このような記法を使うことで解釈が容易になり、曖昧さを排除できる。国際的に記法が確立している関数としては、sin、cos、exp、erf、erfc などがある[1][24]

場合によっては1つの特殊関数が複数の名前を持つこともある。自然対数には Log、log、ln などの記法があり、文脈によって使い分けられる[1][24]。例えば正接関数は Tan、tan、tg(ロシア語の書籍に多い[25]、例えばロシア語版wikipediaにある三角関数の記事を参照)などの記法がある。逆正接関数は atan、arctg、tan−1 などの記法がある。ベッセル関数Jn(x) と記されることが多いが[1][2][3]、besselj(n,x) や BesselJ[n,x] も同じ関数を意味している。

引数を示すのに添え字がよく使われる(整数が多い。例えば直交多項式[1][14][15][16][17]ベッセル関数[1][2][3]など)。まれにセミコロン (;) やバックスラッシュ (\) を分離文字として使うこともある。このような場合、論理的に解釈する際に曖昧さが生じ、混乱することがある。

肩文字はべき乗を示すだけでなく、関数の修飾を意味することがある。例えば、次のような例がある[1]

  • cos3(x) は (cos(x))3 を意味する。
  • cos2(x) は (cos(x))2 を意味するのが普通で、cos(cos(x)) と解釈することは滅多にない。
  • cos−1(x) は arccos(x) を意味するのが普通で、(cos(x))−1 という意味ではない。この例は上の2つの例とは異なるため、ここで混乱することが多い。

特殊関数の値の評価

特殊関数は変数が複素数である関数と見なせることが多い。それらは解析的であり、特異点カットで記述される[24]微分形式や積分形式が知られており、テイラー級数漸近展開を持つ[26]。さらに、他の特殊関数との関係が知られている場合には、より簡単な関数の組み合わせで表現できる場合がある。関数値の評価にはこれらの様々な表現を使う。最も単純な方法は、テイラー級数による級数展開を打ち切ったものを(展開の中心付近で)用いることであるが、展開された級数の収束が遅い場合がある[27]有理関数による近似式を使う場合もある。ある区間の中で多項式の値により関数値を近似する場合には打ち切られたテイラー展開を使うよりも最良近似理論に基づく近似式や打ち切られたチェビシェフ多項式展開を用いる方が良い。また有理関数近似についても最良有理近似式が使われることがある。

主な研究者

日本

海外

アメリカ合衆国

イギリス

脚注

参考文献

和文

和書

以下のリストは不完全なものである。これら以外にも楕円関数、超幾何関数、ベッセル関数、ゼータ関数など個別の特殊関数を主に扱って書かれた本も多数ある。

  • 犬井鉄郎:「特殊函数」、岩波書店
  • 石津武彦:「特殊関数論」、朝倉書店(応用数学力学講座4)(1963年)。
  • 小野寺嘉孝:「物理のための応用数学」、裳華房
  • 寺沢寛一:「自然科学者のための数学概論」、岩波書店。
  • 森口・宇田川・一松:「数学公式III 特殊関数」、岩波書店。
  • 金子尚武・松本道夫:「特殊関数」、 培風館(1984年)。
  • H.ホックシタット:「特殊関数―その理・工学への応用」、倍風館(1974年)。
  • 藪下信:「特殊関数とその応用」、森北出版、ISBN 978-4-627-00400-9(1975年12月)。
  • 戸田盛和:「特殊関数」、朝倉書店(1981年)。
  • A.П. Прудников、О.И. Маричев、Ю.А. Брычков:「新数学公式集 II 特殊関数」、丸善、ISBN 978-4621036822(1992年3月)。
  • 小松勇作:「特殊函数」(復刊)、朝倉書店、ISBN 978-4-254-11655-7(2004年3月15日)。
  • 時弘哲治、「工学における特殊関数」、共立出版ISBN 978-4-320-01612-5(2006年6月)。
  • 蓬田清:「演習形式で学ぶ特殊関数・積分変換入門」、共立出版、ISBN 978-4320018297(2007年1月)。
  • 木村弘信:「超幾何関数入門:特殊関数への統一的視点からのアプローチ」、サイエンス社(2007年5月25日)。
  • 一松信:「特殊関数入門」、森北出版、ISBN 978-4627038295 (2008年4月30日)。
  • ジョージ.ブラウン・アルフケン、ハンス.J・ウェーバー:「基礎物理数学第4版Vol.3 特殊関数」、講談社、ISBN 978-4061539792(2001年).
  • 伏見康治、赤井逸:「復刊 直交関数系」、共立出版、ISBN 978-4320034785(2011年6月10日)。
  • 半揚稔雄:「つかえる特殊関数入門」、日本評論社、ISBN 978-4-535-78850-3(2018年9月)。

解説記事

洋書

特殊関数と数理物理

  • Nikiforov, A. F., & Uvarov, V. B. (1988). Special functions of mathematical physics. Basel: Birkhäuser.
  • Magnus, W., Oberhettinger, F., & Soni, R. P. (2013). Formulas and theorems for the special functions of mathematical physics. en:Springer Science & Business Media.

特殊関数と表現論

数値計算に関する文献

関連項目

外部リンク