水資源機構

日本の埼玉県さいたま市中央区にある独立行政法人

独立行政法人水資源機構(みずしげんきこう、Japan Water Agency)は、主に国土交通省を中心として農林水産省経済産業省の三省庁が所管する独立行政法人水資源機構法に基づく独立行政法人である。旧称は水資源開発公団埼玉県さいたま市中央区に本社を置く。

独立行政法人水資源機構
ロゴ
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本社が入居するランド・アクシス・タワー(明治安田生命さいたま新都心ビル)
本社が入居するランド・アクシス・タワー(明治安田生命さいたま新都心ビル
正式名称独立行政法人水資源機構
英語名称Japan Water Agency
組織形態中期目標管理法人たる独立行政法人
所在地日本の旗 日本
330-6008
埼玉県さいたま市中央区新都心11番地2
ランド・アクシス・タワー
法人番号6030005001745 ウィキデータを編集
資本金73億4,905万8,978円(政府出資)
人数1,390名(2024年3月31日現在)
理事長金尾健司
設立年月日2003年10月1日
前身水資源開発公団
所管国土交通省農林水産省経済産業省
ウェブサイトhttps://www.water.go.jp/honsya/honsya/index.html
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機構は、水資源開発基本計画に基づく水資源の開発又は利用のための施設の改築等及び水資源開発施設等の管理等を行うことにより、産業の発展及び人口の集中に伴い用水を必要とする地域に対する水の安定的な供給の確保を図ることを目的とする(独立行政法人水資源機構法第4条)。

事業

  1. 産業の発展および人口の集中する主要一級水系利根川荒川木曽川豊川淀川吉野川筑後川)の流域に対する水の安定供給の確保を図ること。
  2. 水機構管理ダム及び用水路・導水路・湖沼水位調整施設(琵琶湖霞ヶ浦関連の利水事業)などの維持・管理。

沿革

発足までの経緯

戦後の河川開発は主に治水を中心とした河川総合開発事業に基づく開発であり、これに基づき特定多目的ダム法1957年昭和32年)に制定され、河川管理者である建設大臣(現・国土交通大臣)による一貫的な施工・管理が実現した。一方利水に関しては1947年(昭和22年)に農林省(現・農林水産省)が『国営農業水利事業』を展開し、加古川九頭竜川等で大規模な河川開発が行われた。また愛知用水愛知用水公団によって建設され、慢性的な水不足に悩まされた知多半島に用水を供給する事業展開を行っていた。

上水道に関しては、東京都水道局小河内ダムを1957年に完成させた他には大規模な水道施設は建設されず、系統的な水運用が図られた訳でもなかった。加えて戦後の急激な人口増加と工業生産の飛躍的発展は水利用の増加を促し、次第に水需給のバランスが崩れ水不足に悩まされる地域が増加した。折から高度経済成長に突入する事もあって、首都圏関西圏などの大都市圏は京浜工業地帯阪神工業地帯などの「四大工業地帯」の拡大とあいまって集中的・加速度的な人口増加が将来的にも見込まれた事から、系統的かつ安定的な水供給が可能な河川総合開発の必要性が生じた。

水資源開発公団の発足

1961年(昭和36年)、従来の多目的ダムに産業発展の為の利水目的を増強するため、自然湖沼用水路などを総合的に運用する事で系統的な利水供給体制を整備するための法整備が行われた。これが「水資源開発促進法」であり、事業を進めるための執行機関の骨格を定めた「水資源開発公団法」と共に国会で可決・成立した。そして翌1962年(昭和37年)5月1日に両法は施行され、水資源開発公団が発足した[1]

公団発足と同時に首都圏の水源である利根川水系と、阪神圏の水源である淀川水系が重点的な水資源開発を行う水系である「水資源開発水系」に指定された。これと同時に、建設省(現・国土交通省)が施工していた矢木沢ダム(利根川)・下久保ダム神流川)・高山ダム名張川)・宇陀川ダム(後の室生ダム。宇陀川)が公団に事業承継された。これ以後水資源整備の基本方針である「水資源開発基本計画」(フルプラン)を策定し、計画に基づいた新規のダム・堰・用水路建設が行われた。また愛知用水公団を統合し愛知用水と豊川用水の管理も実施した。

1964年(昭和39年)には筑後川水系、1965年(昭和40年)には吉野川水系、1966年(昭和41年)には木曽川水系が水資源開発水系に指定され、愛知県名古屋市を中心とした中京圏福岡県福岡市を中心とした北部九州、慢性的な水不足に悩まされた四国地方の水資源開発が行われた。さらに、人口の増加に歯止めが掛からない首都圏の水需要確保の為に、1974年(昭和49年)には荒川水系も開発水系に指定され、利根川水系と統合した水資源開発が行われた。水資源開発水系は1990年平成2年)の豊川水系が最後となるが、ここまでの間に多くの施設が建設された。

こうした水資源整備によって、長年にわたって水不足に悩まされた地域への安定した水供給が実現する事となった。特に四国・瀬戸内地域では、讃岐平野への導水を図る香川用水の完成や愛媛分水(銅山川分水)といった住民の宿願を実現する事業が完成し、現在も上水道農業用水工業用水道の供給に大きな役割を担っている。また、利根川水系の水資源整備はBODが40ppmという絶望的な水質汚濁に悩まされた隅田川の汚染回復にも役立っている(詳細はダムと環境を参照)。さらに筑後川では筑後大堰の建設を機に、公団と福岡県久留米市などの流域自治体が共同で日本住血吸虫症の撲滅運動を実施、長年にわたって住民を苦しめた風土病2000年(平成12年)に完全に根絶させた。

開発に伴う問題

ダム建設に伴う地元住民との軋轢も各地で発生した。特に堰については、漁業権環境保護運動の両面から反対運動が起こった。契機は利根川河口堰(利根川)完成後の河川生態系への影響が各方面から指摘された事である。「ダムの無い川」と呼ばれた長良川に建設された長良川河口堰では、自然保護との関連において全国を巻き込む大論争に発展し、筑後大堰では漁業関係者が実力で事業阻止に動いた。この他、徳山ダム揖斐川)や早明浦ダム(吉野川)などでは地域の存亡に関わる程の水没世帯数であった事から、激しい反対運動が繰り広げられた。水源地域対策特別措置法の指定を受けるダムも多く、事業が長期化しているダムは数多い。

更に、1990年代以降にはバブル崩壊や産業の空洞化、人口増加速度の鈍化・減少によって、次第に当初の計画から需要が減少する「水余り」現象を指摘する声が多くなり[誰?]公共事業の見直し論議が高まるにつれ、ダム建設の是非が公団ダムでも論じられる様になり、中止したダム事業が次第に現るようになった。1982年(昭和57年)の板取ダム(板取川)を始め、戸倉ダム(片品川)・平川ダム(泙川)・栗原川ダム(栗原川)などが建設中止となった。その反面、地球温暖化による1994年(平成6年)の渇水や2005年(平成17年)の渇水といった深刻な被害も近年増加しており、こうした観点から水資源整備の必要性を訴える声も多い[誰?]

水資源機構への改組

公団時代に建設された矢木沢ダムのプレート。「現水資源機構」と追記がなされている。

2002年(平成14年)11月、本社を東京都港区赤坂TBS会館から、埼玉県さいたま市中央区新都心の明治安田生命さいたま新都心ビル(ランド・アクシス・タワー)に移転した。

当時の小泉内閣はかねてより批判の強かった特殊法人に対する抜本的改革を実施し、歳出の削減を図ろうとした。この『骨太の方針』に伴う特殊法人改革で水資源開発公団も対象となり、同年2月11日参議院本会議で『独立行政法人水資源機構法案』が可決・成立した。こうした経緯を経て2003年(平成15年)10月1日に公団は解散、これを引き継ぐ形で独立行政法人水資源機構が設立され、現在にいたる。

所轄・組織

本社

役員

理事長 1人
副理事長 1人
理事 5人
監事 2人

本社

  • 技師長
  • 常務参与
  • 首席審議役
  • 危機管理監
  • 特命審議役
  • 特命審議役(関東事業室長)
  • 総務人事本部
    • 総務部
      • 総務課
      • 広報課
    • 人事部
      • 人事課
      • 労務厚生課
      • 女性活躍支援リーダー
  • 財務用地本部
    • 財務部
      • 財務課
      • 資金課
    • 用地管財部
      • 用地補償課
      • 資産管理課
  • 経営企画本部
    • 経営企画部
      • 企画課
      • 計画課
      • 予算課
    • 技術管理室
      • 技術管理課
      • 契約企画課
  • ダム事業本部
    • ダム事業部
      • 設計課
      • 事業課
      • ダム管理課
      • 環境課
    • 管理調整室
      • 管理調整課
  • 水路事業本部
    • 水路事業部
      • 設計課
      • 計画課
      • 事業課
      • 利水課
    • 設備保全室
      • 設備保全課
      • 建築課
  • 監査室
  • 総合技術センター
    • マネージメントグループ
    • ダムグループ
    • 水路グループ
    • 施工監理グループ
    • 情報グループ
    • 国際グループ

支社・事業所

  • 中部支社 - 愛知県名古屋市中区
  • 関西・吉野川支社 - 大阪府大阪市中央区
    • 淀川本部 - 大阪府大阪市中央区
    • 吉野川本部 - 香川県高松市
  • 筑後川局 - 福岡県久留米市

活動内容

  • 水の安定供給
    • 水系管理・ダム管理
    • 水質保全、洪水調節操作など
  • 広報・啓蒙活動
    • 広報誌「水とともに」

機構管理ダム一覧

備考:黄色欄は建設中・計画中、赤色蘭は中止に伴う地域整備中のダム(2017年5月現在)。

ダム事業本部管理(国土交通省所管)

ダム事業本部が管理を行うダムは、その全てにおいて洪水調節目的を有する。従って全てのダムが多目的ダムとなる。だが、水資源機構自体が治水を積極的に行うという訳ではなく、国土交通大臣の委託を受けて管理を代行しているという位置づけである。そのため、ただし書き操作などの重大な洪水調節が必要となった場合には、国土交通大臣が直接ダム操作の指揮を行うことがある(実際の業務は所管の地方整備局が行う)。

多くのダムは元来建設省(国土交通省)が予備調査や実施計画調査に着手した後に、「水資源開発基本計画」の変更によって移管された経緯がある。機構が計画段階より手掛けたダムは青蓮寺ダムが最初となる。

水系一次
支川
(本川)
二次
支川
三次
支川
ダム名堤高
(m)
総貯水
容量
(千m3)
型式着手
(年)
完成
(年)
備考
利根川利根川矢木沢ダム131.0204,300アーチ式19591967建設省より移管
利根川利根川利根川河口堰7.090,000可動堰19621970
利根川楢俣川奈良俣ダム158.090,000ロックフィル19731990
利根川烏川神流川下久保ダム129.0130,000重力式19591968建設省より移管
利根川渡良瀬川草木ダム140.060,500重力式19651976建設省より移管
利根川渡良瀬川思川南摩川南摩ダム86.551,000ロックフィル19692024建設中
荒川中津川滝沢ダム140.063,000重力式19692008建設省より移管
荒川浦山川浦山ダム156.058,000重力式19721998建設省より移管
木曽川木曽川味噌川ダム140.061,000ロックフィル19731996建設省より移管
木曽川阿木川阿木川ダム101.548,000ロックフィル19691990建設省より移管
木曽川飛騨川馬瀬川岩屋ダム127.5173,500ロックフィル19661976建設省より移管
中部電力と管理
木曽川長良川長良川河口堰可動堰19681994
木曽川揖斐川徳山ダム161.0660,000ロックフィル19712008建設省より移管
淀川姉川高時川丹生ダム145.0150,000ロックフィル1980中止建設省より移管
建設中止
淀川桂川日吉ダム67.466,000重力式19711997
淀川木津川前深瀬川川上ダム84.031,000重力式19812022建設中
淀川木津川名張川比奈知ダム70.520,800重力式19721998
淀川木津川名張川高山ダム67.056,800重力式アーチ19581968建設省より移管
淀川木津川名張川青蓮寺川青蓮寺ダム82.027,200アーチ式19641970
淀川木津川名張川宇陀川室生ダム63.516,900重力式19661973建設省より移管
淀川木津川布目川布目ダム72.017,300重力式19751991
淀川神崎川猪名川一庫大路次川一庫ダム75.033,300重力式19681983
吉野川吉野川早明浦ダム106.0316,000重力式19631977建設省より移管
吉野川吉野川池田ダム24.012,650重力式19681974
吉野川銅山川富郷ダム111.052,000重力式19742000建設省より移管
吉野川銅山川新宮ダム42.013,000重力式19691975
吉野川旧吉野川旧吉野川河口堰7.34,930可動堰19681976
吉野川旧吉野川今切川今切川河口堰可動堰19681976
筑後川筑後川筑後大堰13.85,500可動堰19741984
筑後川赤石川大山ダム[2]94.019,600重力式19832012
筑後川小石原川小石原川ダム129.040,000ロックフィル19922019建設中
筑後川佐田川寺内ダム83.018,000ロックフィル19701979

水路事業本部管理(農林水産省・厚生労働省・経済産業省所管)

水路事業本部管理のダムは、その目的が灌漑上水道工業用水道に特化しているものがほとんどであり、洪水調節目的を持つものは無い。従って多目的ダムであっても「河川総合開発事業」で建設される多目的ダムとは異なり、国土交通省の専管外となる。

農林水産省農村振興局が所管する灌漑事業(国営農業水利事業・土地改良事業・かんがい排水事業)や国土交通省水管理・国土保全局水道事業課が所管する上水道事業、経済産業省経済産業政策局が所管する工業用水道事業と密接に関係しており、大島ダムなど一部のダムは元来農林水産省直轄ダムであったものが移管されている。また愛知用水公団の事業をそっくり受け継いだ経緯もある。ダムの他愛知用水香川用水見沼代用水など全国の主要な用水路の多くも、水路事業部の管轄である。

アースダムが多いのも特徴の一つで、日本における大規模アースダムの大半が水路事業部管理のダムである。さらに河道外に建設される例もある。用水の取水口があるダムも機構管理である事が多いが、他事業者の管理ダムを利用している例もある。挙例すれば愛知用水の取水口がある兼山ダム木曽川)や木曽川用水の取水口がある上麻生ダム飛騨川)、群馬用水の取水口がある綾戸ダム(利根川)がそれであり、これらは電力会社管理ダムである。

水系一次
支川
(本川)
二次
支川
三次
支川
ダム名堤高
(m)
総貯水
容量
(千m3
型式着手
(年)
完成
(年)
関連
用水路
備考
利根川利根川利根大堰可動堰19631968武蔵水路
見沼代用水
埼玉用水路
邑楽用水路
荒川荒川秋ヶ瀬取水堰可動堰1965武蔵水路
朝霞水路
作田川作田川東金ダム28.32,300アース19701993房総導水路
村田川長柄川長柄ダム52.010,000アース19651989房総導水路
豊川宇連川宇連ダム69.029,110重力式19491958豊川用水
豊川宇連川大野頭首工26.01,096重力式1961豊川用水
豊川宇連川大島川大島ダム69.412,300重力式19892001豊川用水農林水産省
より移管
(河道外)初立ダム22.51,700アース1966豊川用水初立池
(河道外)駒場ダム24.645アース1968豊川用水
木曽川木曽川木曽川大堰可動堰1974木曽川用水
木曽川王滝川牧尾ダム104.575,000ロックフィル19571961愛知用水
東濃用水
木曽川加茂川蜂屋川蜂屋ダム30.0631アース19751978木曽川用水
(河道外)上飯田調整池16.170アース19651975木曽川用水
境川東郷ダム31.09,000アース1961愛知用水愛知池
(河道外)三好ダム20.02,235アース1958愛知用水三好池
(河道外)佐布里ダム21.05,300アース1965愛知用水佐布里池
員弁川相場川砂子谷川中里ダム46.016,400アース19641976三重用水
朝明川田光川田口川宮川調整池27.0820アース19641980三重用水
鈴鹿川椎山川加佐登調整池28.73,100アース19641983三重用水
三滝川赤川菰野調整池28.41,650アース19711989三重用水
筑後川小石原川江川ダム79.225,326重力式19671972福岡導水
両筑平野用水
筑後川宝満川卯ヶ原川山口川山口調整池60.03,900ロックフィル19861998福岡導水

脚注

関連組織

関連項目

外部リンク

水資源機構関連

水資源機構法規関連