昆明級駆逐艦

昆明級駆逐艦(クンミンきゅうくちくかん、: Kunming-class destroyer)は、中国人民解放軍海軍が配備を進めているミサイル駆逐艦の艦級。人民解放軍海軍での名称は052D型駆逐艦: 052D型驱逐舰)、NATOコードネーム旅洋III型: Luyang III class[4]

昆明級駆逐艦 (052D型)
基本情報
艦種駆逐艦ミサイル駆逐艦
命名基準中華人民共和国の省都
建造所江南造船(集団)
大連船舶重工集団
運用者 中国人民解放軍海軍
就役期間2014年 - 現在(バッチ1)
2018年 - 現在(バッチ2)
2020年 - 現在(バッチ3)
建造数25隻(6隻建造中)[1]
バッチ1:8隻
バッチ2:5隻
バッチ3:12隻
前級蘭州級(052C型)
次級南昌級(055型)
要目
満載排水量7,500トン[2]
全長157 m (14番艦以降は161 m)[2]
最大幅17 m[2]
吃水6 m
機関方式CODOG方式
主機
推進器スクリュープロペラ×2軸
出力
  • ディーゼル:6 MW (8,000 hp)
  • ガスタービン:28 MW (38,000 hp)
最大速力30ノット
航続距離4,500海里 (15ノット巡航時)
乗員280名
兵装
搭載機Ka-28 / Z-9対潜ヘリコプター×1機
C4ISTAR
レーダー
  • 346A型 多機能型×1式
  • 517B型 対空捜索用×1基
  • 364型 低空警戒・対水上用×1基
  • 366型 SSM照準用×1基
  • ソナー
  • MGK-335 艦首装備式×1基[3]
  • 曳航式×1基
  • 可変深度式×1基
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    来歴

    1995年第三次台湾海峡危機の際に、アメリカ海軍の圧倒的な能力を見せつけられた人民解放軍海軍は、国産駆逐艦の性能限界を痛感した。これを受けて、1999年から2000年にかけてロシア製の956E型駆逐艦(ソヴレメンヌイ級)2隻を緊急導入(2005年より956EM型2隻を追加配備)するとともに[5]空母建造計画も視野に、優れた対空戦能力を有するミサイル駆逐艦の整備が計画されるに至ったと見られている[6]

    1990年代中期のDDG整備計画着手直後は、複数の艦級が並行して少数ずつ建造されており、まず956E型の就役開始と同年の1999年には、これと同系列の中距離艦対空ミサイル・システムを搭載した052B型駆逐艦(広州級)が起工された[5]。これと並行して、アメリカ海軍アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦を高く評価した人民解放軍海軍は、これに範をとった国産艦の研究開発に着手したものと考えられている。これは、イージス艦関連情報に関する諜報活動も含めた国家的プロジェクトとして進められた。これによって開発されたのが052C型(蘭州級)であり、まず2002年から2隻が建造され、2004年から2005年にかけて就役した[5][6]

    この2隻をプロトタイプとして徹底的に性能・運用試験を実施し、これによって得られた不具合対策を連続的に適用するというスパイラルモデルによる開発が進められたものと考えられている。そして2009年より、この開発成果を踏まえて更に052C型4隻が追加建造され、これらは2012年より順次に就役を開始した。また2011年からは、全面的な発展型である052D型(昆明級)の建造が開始されており、以後の整備はこちらに移行した[6][5]

    設計

    設計面では、多くの点で、先行する052C型(蘭州級)が踏襲されており、外形的にも類似点が多い。船型は同様の中央船楼型で、メインセンサーとなるフェーズドアレイレーダーの固定式アンテナ4面を固定装備するために巨大な艦橋構造物を備える点も同様である。ただしステルス性強化のため、上部構造物には傾斜がつけられるとともに高さはやや抑えられ、内火艇の揚降装置も艦内に収容されたほか、煙突には排気の赤外線輻射を抑制する装備が設置されているとされている[7]

    主機関も同様のCODOG方式で、ディーゼルエンジン2基とガスタービンエンジン2基で2軸の推進器を駆動する。巡航機としてはMTUフリードリヒスハーフェン社製MTU 20V956 TB92 V型20気筒ディーゼルエンジンが搭載される。一方、高速機として搭載されるガスタービンエンジンに関しては、ウクライナのゾーリャ・マシュプロイェクト社のUGT-25000を山寨化したQC-280とされている。ウクライナ製UGT-25000(DA80)は、052A型駆逐艦(旅滬型)2番艦「青島」で導入されて以後、中国水上戦闘艦のガスタービン主機として広く用いられてきた。またQC-280に関しては、052B型駆逐艦(広州級)2番艦「武漢」において、同艦搭載のDN80のうち片方をこれに換装しての実用試験が行われ、ソマリア沖海賊対策派遣を含む多様な環境に適応できる安定性と信頼性が実証されたとされている[7]

    装備

    C4ISR

    中国海軍では、既に052C型および航空母艦遼寧」搭載の346型レーダーフェーズド・アレイ方式を導入していたが、これは排熱処理と消費電力に問題があり、特殊な放熱装置を装備して、曲面状のカバーが採用されていた。これに対し、本型装備の346A型においては平面状のカバーとなっており、これらの問題が解決された可能性が指摘されている[7]。また下記の052DL型では[注 1]、航空運用能力の強化とともに、電子装備の一部も変更された[10]。艦中央部に搭載されていた517B型対空レーダーは、アンテナ面積が広がった新型の対空レーダーに換装されたため、ステルス機に対する捕捉能力は向上していると推測されている[11]

    戦術情報処理装置はH/ZBJ海軍編隊作戦/戦術型自動化指揮システム(海軍編隊戦役/戦術型自動化指揮系統)、戦術データ・リンクは西側のリンク 16と同等のJIDS統合情報伝達システムと[注 2]、いずれも052C型後期建造艦に準じた構成と言われている[14]

    武器システム

    艦隊防空ミサイル・システムとしては、052C型と同系列のHHQ-9が搭載される。ただしその垂直発射機(VLS)としては、054A型フリゲート(江凱-II型)搭載のものを発展させた国家軍用標准GJB 5860-2006型と呼ばれる、新しい艦載ミサイルVLSの共通規格に則った初めての機種が採用されており、JB 5860-2006型においては大中小の3種類のモジュールが規定され、大型モジュールは全長9000mm、中型モジュールは全長7000mm、小型モジュールは全長3000mmで、それぞれ直径は850mmとされている。これはHHQ-9以外にも、新型の長射程艦対艦ミサイル(SSM)や対潜ミサイル(SUM)、対地巡航ミサイルの運用にも対応した汎用型となっている[7]アメリカ海軍で標準的に用いられているMk.41のモジュール全高は7.6mとされていることから、GJB 5860-2006型ではより大型のミサイルを収容可能となる[15]

    一方、艦砲としては、052C型の55口径100mm単装速射砲(H/PJ-87)に代えて、新開発の70口径130mm単装砲(H/PJ-45)が採用された。これは鄭州713研究所により開発されたものであるが、同口径のロシアAK-130連装砲の技術も導入されているとされている。またCIWSについては052C型と同じ30mm口径の730型(H/PJ-12)が搭載されたが、後部上部構造物上のものはHHQ-10近接防空ミサイルの24連装発射機に変更された[7]

    艦載機

    艦載ヘリコプターとしては、国産のZ-9Cまたはロシア製のKa-28哨戒ヘリコプターを1機搭載する。しかしZ-9Cは搭載量・航続距離ともに限定的で、Ka-28は使い勝手が悪かったことから、より大型・高性能なZ-20の哨戒ヘリコプター化が模索されるようになり、2020年より運用試験に入った。これにあわせて、本型では、25番艦以降では船体を延長し、格納庫ヘリコプター甲板を拡張した052DL型に移行した[注 1][16]。2018年7月、ニュースサイトJane's360は衛星写真にて江南造船廠で建造されていた14番艦のヘリコプター甲板がストレッチされ、従来艦と比べて全長が4mほど長くなっていることを確認したと報じた[17]

    比較表

    中国海軍の駆逐艦の比較
    051B型(深圳)
    近代化改修後
    052A型(旅滬型)
    近代化改修後
    ソヴレメンヌイ級(現代級)
    近代化改修後
    船体満載排水量6,600 t5,700 t8,060 t
    全長153 m148 m156.37 m
    全幅16.5 m16.0 m17.19 m
    主機方式CODOG蒸気タービン
    出力55,000 shp48,600 shp99,500 shp
    速力30 kt31.5 kt32 kt
    兵装砲熕56口径100mm連装砲×1基70口径130mm連装砲×2基
    30mmCIWS×2基30mmCIWS×4基
    ミサイルVLS×32セル
    HHQ-16
    HHQ-7 8連装発射機×1基VLS×32セル
    (HHQ-16,YU-8)
    YJ-12A 4連装発射筒×4基YJ-83 4連装発射×4基YJ-12A 4連装発射機×2基
    252mm6連装対潜ロケット砲×2基
    水雷3連装短魚雷発射管×2基(Yu-7
    艦載機Z-9C/Ka-28×2機Z-9C×2機Ka-28×2機
    同型艦数1隻2隻1隻
    (1隻改修中,2隻改修予定)
    055型(南昌級)052D型(昆明級)052C型(蘭州級)051C型(瀋陽級)052B型(広州級)
    船体満載排水量12,000 - 13,000 t7,500 t7,000 t近く7,100 t6,600 t
    全長182.6 m156 m154 m155 m154 m
    全幅20.9 m18 m17 m16.5 m
    主機方式COGAGCODOG
    出力130,000 shp以上76,000 hp48,600 shp
    速力30 kt29 kt30 kt29 kt
    兵装砲熕70口径130mm単装砲×1基55口径100mm単装砲×1基
    30mmCIWS×1基30mmCIWS×2基
    ミサイル5860-2006型VLS×112セル
    HHQ-9B,HHQ-16B,YJ-18,CJ-10英語版,Yu-8英語版
    5860-2006型VLS×64セル
    (HHQ-9,CY-5,YJ-18)
    VLS×48セル
    (HHQ-9A)
    B-203A型VLS×48セル
    リフ-M
    単装発射機×2基
    9M317
    HHQ-10 24連装発射機×1基YJ-62 4連装発射筒×2基YJ-83 4連装発射筒×2基YJ-83 4連装発射筒×4基
    水雷3連装短魚雷発射管×2基(Yu-7)
    艦載機Z-18×2機Z-9C/Ka-28×1機ヘリコプター甲板のみZ-9C/Ka-28×1機
    同型艦数8隻
    25隻
    6隻2隻2隻

    同型艦一覧

    #艦名建造所進水就役配備先
    052D型(バッチ1)
    172昆明
    (Kunming)
    江南造船(集団)[18]2012年
    8月29日[18]
    2014年
    3月21日[18]
    南海艦隊[18]
    173長沙
    (Changsha)
    2012年
    12月28日[18]
    2015年
    8月12日[18]
    174合肥
    (Hefei)
    2013年
    7月1日[18]
    2015年
    12月12日[18]
    175銀川
    (Yinchuan)
    2014年
    3月30日[18]
    2016年
    7月12日[18]
    117西寧
    (Xining)
    2014年
    8月26日[18]
    2017年
    1月22日[18][19]
    北海艦隊[18][19]
    154廈門
    (Xiamen)
    2014年
    12月30日[18]
    2017年
    6月10日[19]
    東海艦隊[20]
    118[21]烏魯木斉[21]
    (Ürümqi)
    2015年
    7月7日[18]
    2018年
    1月
    北海艦隊
    119[21]貴陽[21]
    (Guiyang)
    大連船舶重工集団[18]2015年
    11月28日[18]
    2019年
    2月22日[22]
    052D型(バッチ2)
    155[21]南京[21]
    (Nanjing)
    江南造船(集団)[18]2015年
    12月28日[18]
    2018年
    4月2日
    東海艦隊
    131[23]太原[23]
    (Taiyuan)
    2016年
    7月28日[18]
    2018年
    11月29日
    120成都[24]
    (Chengdu)
    大連船舶重工集団[18]2016年
    8月3日[18]
    2019年
    8月1日
    北海艦隊
    161呼和浩特
    (Hohhot)
    江南造船(集団)[18]2016年
    12月26日[18]
    2019年
    1月12日
    南海艦隊
    121斉斉哈爾[25]
    (Qiqihar)
    大連船舶重工集団[26]2017年
    6月26日[26]
    2020年
    8月14日
    北海艦隊
    052DL型(バッチ3)
    156淄博
    (Zibo)
    江南造船(集団)2018年
    6月29日
    2020年
    1月12日
    東海艦隊
    122唐山
    (Tangshan)
    2018年
    7月7日
    2020年
    8月14日
    北海艦隊
    132蘇州
    (Suzhou)
    2018年
    12月18日
    2021年
    1月15日
    東海艦隊
    162南寧
    (Nanning)
    2019年
    2月23日
    2021年
    4月12日
    南海艦隊
    123淮南
    (Huainan)
    2019年
    4月15日
    2021年
    1月23日
    北海艦隊
    124開封
    (Kaifeng)
    大連船舶重工集団2019年
    5月10日
    2021年
    4月16日
    165湛江
    (Zhanjiang)
    2019年
    5月10日
    2021年
    12月25日
    南海艦隊
    133[27]包頭[27]
    (Baotou)
    江南造船(集団)2019年
    8月28日
    2021年
    12月28日
    東海艦隊
    164桂林
    (Guilin)
    2019年
    9月26日
    2021年
    9月
    南海艦隊
    134紹興
    (Shaoxing)
    大連船舶重工集団2019年
    12月26日
    2022年
    2月
    東海艦隊
    163焦作
    (Jiaozuo)
    江南造船(集団)2019年
    12月28日
    2022年
    1月17日
    南海艦隊
    157麗水
    (Lishui)
    大連船舶重工集団2020年
    8月30日
    2022年
    8月10日
    東海艦隊

    登場作品

    テレビドラマ

    ザ・ラストシップ
    シーズン3における敵艦として架空艦「海龍」「河南」などの同型艦が4隻登場。敵対する主人公一行が乗艦する架空のアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦ネイサン・ジェームズ」と戦闘を繰り広げる。作中では、 アーレイ・バーク級駆逐艦のコピー艦であると解説されている。
    登場するのは、アーレイ・バーク級駆逐艦にCG処理を施したものである。

    漫画

    空母いぶき
    「銀川」と連載当時は未就役だった「太原」「南京」が登場。架空の中国海軍空母広東」を中心とする北海艦隊機動部隊に所属している。

    ゲーム

    Modern Warships
    プレイヤーが操作できるtier2艦艇として登場。

    脚注

    注釈

    出典

    参考文献

    • 海人社(編)「写真特集 今日の中国軍艦」『世界の艦船』第816号、海人社、2015年5月、38-41頁、NAID 40020406561 
    • 海人社(編)「写真特集 今日の中国軍艦」『世界の艦船』第945号、海人社、2021年4月、21-51頁、NAID 40022501794 
    • 艦船知識雑誌社(編)「2017年中国海軍装備発展回顧」『艦船知識』第461号、艦船知識雑誌社、2018年2月、62-73頁、ISSN 1000-7148 
    • 香田洋二「艦隊防空能力 (特集 中国海軍 2015)」『世界の艦船』第816号、海人社、88-91頁、2015年5月。 NAID 40020406573 
    • 小原凡司「052D型DDG (世界の新型水上戦闘艦ラインナップ)」『世界の艦船』第782号、海人社、98-99頁、2013年8月。 NAID 40019721131 
    • 小原凡司「大洋の覇権を目指す中国海軍 その現況と将来 (特集 増強急ピッチ! 中国海軍)」『世界の艦船』第917号、海人社、70-77頁、2020年2月。 NAID 40022100548 
    • 陸易「中国軍艦のコンバット・システム」『世界の艦船』第748号、海人社、94-97頁、2011年10月。 NAID 40018965309 
    • 陸易「中国 (特集 最新の洋上防空システム)」『世界の艦船』第889号、海人社、98-101頁、2018年12月。 NAID 40021712982 
    • Saunders, Stephen (2017). Jane's Fighting Ships 2017-2018. IHS Markit. ISBN 978-0710632319 
    • Wertheim, Eric (2013). The Naval Institute Guide to Combat Fleets of the World (16th ed.). Naval Institute Press. ISBN 978-1591149545 

    関連項目

    • ウィキメディア・コモンズには、昆明級駆逐艦に関するカテゴリがあります。