世宗大王級駆逐艦

世宗大王級駆逐艦(せいそうだいおうきゅうくちくかん・セジョンデワンきゅうくちくかん)は、大韓民国海軍ミサイル駆逐艦の艦級。計画名はKDX-III[5][1]

世宗大王級駆逐艦
DDG-991 世宗大王
DDG-991 世宗大王
基本情報
艦種ミサイル駆逐艦
建造所現代重工業
大宇造船海洋
運用者 大韓民国海軍
建造期間2006年 - 2012年(バッチ1)
2021年 - 建造中(バッチ2)
就役期間2008年 - 就役中(バッチ1)
計画数6隻
建造数3隻(バッチ1)
1隻(バッチ2)
前級李舜臣級 (DDH)
次級KDDX英語版
要目
基準排水量7,600 t[1](バッチ1)
8,200 t(バッチ2)
満載排水量10,290 t[1]
全長165.0 m[1]
最大幅21.4 m[1]
吃水6 m[2][注 1]
機関方式COGAG方式
主機LM2500ガスタービンエンジン×4基
推進器可変ピッチ・プロペラ×2軸
出力105,000 bhp
電源ロールス・ロイスAG9140RFガスタービン発電機(3,000 kW[4]
最大速力30ノット以上
巡航速力16ノット
航続距離5,500海里(20kt巡航時)
乗員300人以上
兵装
搭載機スーパーリンクスMk.99
哨戒ヘリコプター×2機
C4ISTAR
レーダー
  • SPY-1D(V) 多機能型 (4面)
  • AN/SPS-67(V)3 対水上捜索用
  • ソナー
  • DSQS-21 BZ-M 艦首装備
  • CAPTAS 曳航式
  • 電子戦
    対抗手段
  • SLQ-200電波探知妨害装置
  • KDAGAIE Mk.2 デコイ発射機×1基
  • SLQ-261K 対魚雷デコイ装置
  • AN/SLQ-25 対魚雷デコイ装置
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    イージスシステムを搭載しており、本級の就役により、大韓民国アメリカ合衆国日本スペインノルウェーに次いで世界で5番目のイージス艦保有国となる。

    来歴

    大韓民国海軍では、1970年前後にフレッチャー級駆逐艦を導入して艦隊駆逐艦の運用に着手したのち、1980年代には更にFRAM改修型のアレン・M・サムナー級ギアリング級を導入し、洋上作戦能力の強化を図っていた[6]。一方、1970年代朴正煕政権が発表した「自己完結型の国防力整備を目指した8ヶ年計画」に基づき、戦闘艦の国産化が着手され、まず東海級コルベット蔚山級フリゲートが建造された[7]

    続いて初の国産駆逐艦としてKDX-I型(広開土大王級)が建造されることになり、当初は17~20隻の建造が計画されたものの、実際には1995年から2000年にかけて3隻が建造されるに留まった。またこれに続いて、韓国初の防空艦としてKDX-II型(李舜臣級)が建造され[7]、2003年から2008年にかけて6隻が就役した[1]

    一方、これと並行して、より先進的な防空艦の取得計画が進められており、1996年からの概念設計を経て[8]、2001年より詳細設計が開始された。搭載システムとしては、欧州のAPARとアメリカのイージス武器システム(AWS)が遡上に載せられており、既にイージス艦を運用していた海上自衛隊への問い合わせも含めて検討を重ねた結果[9][注 2]、2002年7月には搭載システムとしてAWSが選定された。これによって建造されたのが本級である[1]

    設計

    KDX-IIの設計はKDX-Iと共通点が多かったのに対し、本級の設計は全く別系統で、アメリカ海軍アーレイ・バーク級フライトIIAをタイプシップとしている。ただし国産VLSの追加搭載などに伴った設計変更が行われており、アーレイ・バーク級フライトIIAと比して、全長で9.7メートル、幅で1.1メートル大きくなり、基準排水量で約1,000トンの差がある。また艦首から艦橋までの前甲板に顕著なブルワークが付されている[10]。水線下の形状もアーレイ・バーク級とは明らかに異なり、流体力学上不合理なものとなっているとも指摘されている[7]

    なおメインマストの左右にある支柱は後から追加されたものであり、当初の構想図にも1番艦の進水時にもなかったものである。

    主機も、KDX-I/IIではCODOG方式を採用していたのに対し、本級ではアーレイ・バーク級と同様に、ゼネラル・エレクトリック LM2500ガスタービンエンジン4基で可変ピッチ・プロペラ2軸を駆動するCOGAG方式となっている[5][1]。なおこのLM2500は、サムスンテックウィン社によってライセンス生産されている[11]

    なお2014年10月26日には、本級全艦の水中放射雑音が設定された基準値を超えていることが判明した。軍はネームシップの就役3ヶ月前の2008年9月にこの問題を把握していたが、就役が近いという理由で納入メーカーに数億ウォンの賠償金を課しただけで実戦配備していた[12]

    装備

    上記の経緯より、本級はAWSを中核とした戦闘システムを備えており、米ロッキード・マーティン社によって、イージス艦載戦闘システム (AEGIS Shipboard Combat System)として統合されている[13]。1-3番艦はバッチ1、4番艦以降はバッチ2と区別されている[14]

    C4ISTAR

    戦闘システムの中核となるイージス武器システム(AWS)は、1-3番艦はベースライン7.1の発展型が搭載され、4番艦からはベースライン9が搭載された[14]。多機能レーダーはAN/SPY-1D(V)が採用されており[15]、そのパッシブ・フェーズドアレイ・アンテナの装備要領はアーレイ・バーク級フライトIIAと同様である[10]

    探信儀としては、タレス社と共同開発したDSQS-21BZ-Mを搭載した[10]。対潜戦システムとしては、アーレイ・バーク級ではAN/SQQ-89が搭載されていたのに対し、本級ではASWCS-Kが搭載された[16]。これはノルウェー海軍のイージス艦であるフリチョフ・ナンセン級フリゲートで搭載されたコングスベルグ社のMSI-2005F対潜システムをもとに、同社とロッキード・マーティン社が共同で開発したものである[17][18][19]。またCAPTAS Mk.2(V)1曳航ソナーも搭載された[20]

    電波探知妨害装置としては、アーレイ・バーク級フライトIIAではAN/SLQ-32(V)3が搭載されていたのに対し、本級では、KDX-IIと同系統のSLQ-200(V)1K「ソナタ」が搭載された[1]。またこれと連動するデコイ発射機も、KDX-I/IIと同じくKDAGAIE Mk.2を搭載した[20]

    衛星通信

    本級は、就役当初、アメリカ軍の衛星通信システムに連接する能力を持っていないことが指摘されていた[21]。しかしその後、Mini-DAMAとして知られるAN/USC-42衛星通信端末用のAV2099衛星通信アンテナを搭載していることが確認されており、またアメリカ側も対外有償軍事援助により同端末を韓国に対して輸出したことを発表している[22]

    また、韓国軍自身の通信基盤として、ムグンファ3号・5号によるANASIS衛星通信システムも導入されている。このほか、民間の商用衛星通信として、有名なインマルサットや、アメリカのKVHインダストリーズ社と日本のスカパーJSAT社によるローミング・サービスも搭載している[23]。これらは、アメリカ軍が同盟国との統合作戦に使用するために整備しているCENTRIXSなどに接続するために用いられる。

    武器システム

    艦対空ミサイルの発射装置として、艦首甲板に48セル、また艦尾側に32セルのMk.41 VLSを備えている。ミサイルとしてはSM-2MRブロックIIIB艦隊防空ミサイルまたはESSM個艦防空ミサイルが搭載されており[1]、またSM-2についてはSM-6への更新が決定された[15]

    艦対艦ミサイルとしては、国産の海星(ヘ・ソン)の4連装発射筒を4基搭載する。また艦尾側のMk.41と並べて国産のVLSを48セル備えており、紅鮫対潜ミサイル16発および天竜(チョニョン)英語版朝鮮語版艦対地ミサイル32発を収容している[15]

    艦砲はKDX-IIと同構成で、62口径127mm単装砲(Mk.45 mod.4 5インチ砲)を艦首甲板に搭載した[1]CIWSはKDX-IIと同構成で、RAM近接防空ミサイルゴールキーパーを併用している[1]

    短距離用の対潜兵器もKDX-IIと同じくK745「青鮫」魚雷英語版朝鮮語版324mm3連装短魚雷発射管(Mk.32)を搭載した[1]

    比較表

    イージス艦の比較
    まや型 ホバート級 世宗大王級
    バッチ1
    タイコンデロガ級
    AMOD改修艦
    アーレイ・バーク級
    フライトIIA
    船体満載排水量10,250 t7,000 t10,290 t9,763 t - 10,010 t9,648 t
    全長170 m146.7 m165 m172.46 m155.3 m
    全幅21.0 m18.6 m21.4 m16.76 m20.1 m
    主機方式COGLAGCODOGCOGAG
    出力69,000 ps47,000 hp105,000 hp86,000 hp100,000 hp
    速力30 kt28 kt以上30 kt以上
    兵装砲熕62口径5インチ単装砲×1基62口径5インチ単装砲×2基62口径5インチ単装砲×1基[注 3]
    20mmCIWS×2基20mmCIWS×1基30mmCIWS×1基20mmCIWS×2基20mmCIWS×2基[注 4]
    87口径25mm単装機関砲×2基
    12.7mm単装機銃×4基
    ミサイルMk.41 VLS×96セル
    (SM-2, SM-3, 07式)
    Mk.41 VLS×48セル
    (SM-2, SM-6, ESSM)
    Mk.41 VLS×80セル
    (SM-2)
    Mk.41 VLS×122セル
    (SM-2, VLA, TLAM)
    Mk.41 VLS×96セル
    (SM-2, ESSM, VLA, TLAM)
    K-VLS×48セル
    (天竜, 紅鮫)
    RAM 21連装発射機×1基
    SSM[注 5] 4連装発射筒×2基ハープーン 4連装発射筒×2基海星 4連装発射筒×4基ハープーン 4連装発射筒×2基[注 6]
    水雷324mm3連装短魚雷発射管×2基
    艦載機SH-60K×1機[注 7]MH-60R×1機スーパーリンクスMk.99×2機MH-60R×2機
    同型艦数2隻3隻3隻11隻(1隻退役)47隻予定

    同型艦

    一覧表

    バッチ艦番号艦名建造起工進水竣工
    1DDG-991世宗大王
    (セジョンデワン)
    現代重工業2006年
    5月20日
    2007年
    5月25日
    2008年
    12月22日
    DDG-992栗谷李珥
    (ユルゴク・イ・イ)
    大宇造船海洋2006年
    11月9日
    2008年
    11月14日
    2010年
    8月31日
    DDG-993西厓柳成龍
    (ソエ・リュ・ソンニョン)
    現代重工業2007年
    12月28日
    2011年
    3月24日
    2012年
    8月30日
    2DDG-995正祖大王
    (チョンジョ・デワン[14]
    2021年
    10月5日
    2022年
    7月28日[14]
    2024年予定[14]
    DDG-9962026年予定
    DDG-997

    運用史

    1番艦は現代重工業2004年8月25日に発注され、2004年11月に1番艦の建造着工。2008年12月実戦配備。当初、安龍福とし、池徳七、尹永夏が艦名候補として検討されたが、2007年に世宗大王と名付けられた。また、同年6月28日には尹永夏が犬鷲型ミサイル艇に命名され、艦名候補から外れた。竣工当初は運用維持及び補修などに必要な予算確保などの問題があるとの指摘もあった[24]

    その後、2013年12月10日、韓国軍当局はイージス艦3隻を新たに導入し、6隻態勢に増強する計画を確定した[25]

    現代重工業がKDX-IIIバッチIIの1番艦を2019年10月に、2番艦を2021年11月にそれぞれ受注。2021年10月に1番艦の起工式が行われた(着工自体は2021年2月16日)[26]。韓国海軍と防衛事業庁は、2022年7月28日に進水式を開催したと発表した[27]

    バッチ1最終艦の竣工から約10年の期間あり、K-VLS2の採用など各種装備に変更が行われているため、別級に分類される可能性もある。

    脚注

    注釈

    出典

    参考文献

    関連項目

    同時期のイージス艦

    外部リンク