ワールドメイト
ワールドメイトは、深見東州(半田晴久)が教祖[3]をつとめる神道系の宗教団体である。1984年にコスモコアという名称で創設された後、コスモメイト[4]やパワフルコスモメイトを経て1994年に現名称のワールドメイトに変更した。2012年に宗教法人として認証された。御親元素大御神(みおやもとすおおみかみ。別名⦿の神、スの神)などを祀る[5]。本部を静岡県伊豆の国市に置く。橘カオルが開祖であり、後に深見が教祖的な位置付けとなった[6]。
設立 | 1984年(昭和59年) |
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設立者 | 深見東州 |
種類 | 宗教法人 |
法人番号 | 8080105005193 |
本部 | ![]() |
座標 | 北緯35度1分17.5秒 東経138度57分20.5秒 / 北緯35.021528度 東経138.955694度 東経138度57分20.5秒 / 北緯35.021528度 東経138.955694度 |
重要人物 | 橘カオル |
関連組織 | インターナショナル・シントウ・ファウンデーション 神道国際学会 シアヌーク病院[1] ワールドメイト未来の光孤児院[2] |
ウェブサイト | www |
概要
神道系の新宗教であり、若者をターゲットに、音楽や様々なエンターテイメント要素のある軽いノリと、神事での厳粛さの使い分け、教祖深見のエンターテイナーとしての魅力、1990年代の霊界ブームでの深見の著作の人気などで勢力を拡大した[7][8]。宗教学者の沼田健哉は、大本など教派神道の一派と見做すべきものと述べている[9]。その一方、深見は著作において神社神道の世界を紹介しており[9]、神社参拝を重視し、特に伊勢の皇大神宮を奉じる[10]。神社参拝による開運ができると考えている[11]。沼田は、深見が神道のみならず仏教など宗教全般に博識で、「仏教、儒教、道教、神道の要素外では大本教の教えと重なる部分が多いが、それに世界真光文明教団、(大本と提携していた)道院紅卍字会等の他の教団の教えと彼独自のものが付け加わっている」と評している[12]。また、伝統的なものと最先端のものの融合が見られ、ニューエイジと類似した面があると述べている[13]。教団において、霊能力者の橘カオル(植松愛子、本名・徳田愛子)は「神の啓示の受け手」、深見東州は「神の仕組みの担い手」として仕組みを解明し、広める役目であったという[14]。
沼田健哉は深見をシャーマンであり審神者でもあると見做しており、シャーマンとしては脱魂と憑依の両方が見られると述べている[19]。深見の前世は聖徳太子であり、神が憑依合体した存在であるという[20]。橘カオルはシャーマンであり審神者であり、こちらも神が憑依合体した存在で、前世は推古天皇ともされ[20]、会員からは「この世界でただ一人許された特別な使命を持った方」と呼ばれる[21]。深見は霊能力者で悪霊を祓うことができるとされ、教団では除霊(救霊)、前世鑑定、守護霊鑑定、守護霊のランクアップ、病気の霊的な鑑定、霊的な美容法・ダイエット法など、様々な秘法(呪術)が行われており、秘法が重視されている[22][23]。
教団は「宗教団体としての、弱者救済の立場に立った、慈悲慈愛の実行」「人道的見地に立った、会員や社会への対応」「社会良識に基づく誠実な対応」を3大スローガンとし、組織運営の根幹に置くとしている[24]。沼田健哉は、「(教団は)神より神人合一の道とそれを成就するための神法がおろされたところであり、実在の神を掌握し、神を行じ神人合一の道を究めること」がスローガンであると述べている[25]。神人合一により新しい時代を切り開き、「弥勒の世」を実現すること目指しているという[12]。過去に古代文明の栄えたムー大陸があったと考えられており、そのころは神界と現実界が互いに良く認識していた神代であると考えられている[12]。弥勒の世は250年以内にできると考えられており、古代のように再び人間が神人合一した存在になる理想社会であり、深見はこのような万能の存在のひな形とされている[12]。
宗教学者の島薗進によると、「個人参加型」「隔離型」「中間型」の新宗教3分類のうち、サークル感覚の「個人参加型」に属する[26]。脱俗的・出家的なあり方を否定し、社会生活の中で人格を磨く必要性を説いており、仕事(生業)や家庭生活との調和を重んじるとする[27]。毎日新聞取材の『世紀末の神サマ』では、学園祭型新宗教と命名されており、会員が必要な範囲で団体が提供する情報を摂取してもらえばいいという大学の任意サークル[27]のような自由なスタンスをとる[28]。組織への強い忠誠心を求めるというよりは[28]、常に明るく安定した心理状態を保つという「明るさ」の追求が強調されている[29]。
ナショナリズムとインターナショナルな要素が入り混じっており[30]、天皇制を重視し、世界連邦の形成を目指している[30]。世界連邦形成のために諸宗教の対話が必要であるとし、そのために政治を重視している[30]。深見の描くユートピア像は、マルクスが『ドイツ・イデオロギー』で描いた共産主義ユートピアと似ており、マルクスは国常立命の分身であるとしている[9]。
深見は神道国際学会(International Shinto Foundation インターナショナル・シントウ・ファウンデーション)という日本文化・神道の研究紹介を行うNGOを設立して活動に深く関与しており、この組織は実質的にワールドメイトの財政援助で成り立っている[3]。ドイツの宗教学者インケン・プロールは、日本の新宗教の教団は、自分たちの主張を発信するために学術活動を支援することがあるが、その最も典型的な例だと述べている[31]。神道国際学会を通じて深見の活動を支持する神道関係者は少なくない[3]。全国の神社に多額の献金も行っている[9]。
若者など現代人にアピールするため、人種・民俗・宗教の壁を超えるものとして、音楽芸術・福祉活動・スポーツを重視し、ブラインドゴルフの支援など、多様な活動が行われている[32][33]。
沿革
橘カオル(徳田愛子)は1934年に東京で生まれた[34]。母が彼女を身ごもった時に、観音菩薩が体内に入る夢を見たという[34]。少女の頃は霊感があったと言うが、しつけに厳しい上流階級の家庭でごく普通に育てられた[34]。結婚し、安定した家庭の主婦であったが、33歳の時に母が亡くなり、神の使いとして母の霊が夢枕に立ち、以降様々な神が夢に現れ、夢の導きで訪れた磐梯山の古い神社で神の実在を悟り、「神人合一の道の神法」が降ろされたという[34]。以降、家事育児を通して修行に励むようになり(生活修行)、一心不乱に家事をすると文字が浮かび、その意味を読み解きしばらくするとまた別の文字が浮かぶ、という修業が6,7年続き、1972年に⦿の神(スの神)が降りた。「女性を導け」「己の存在を、時期が来るまで外部に知らしめるな」という神託があり、のちに深見との出会いを予言されたという[34]。橘は神託を受け、家事や茶道・華道などのサークル、ケーキ教室を開き修行とした。これらは女性の学びの場であるが、橘は自身が大学に行っていないこともあり、女性が大学に行く必要はないと考えていた[34]。また、一時期世界真光文明教団の信者だったことがあり、親族に複数の幹部がいた[16]。
深見東州(半田晴久)は、1951年に兵庫で生まれた。父は荒んでおり家庭環境は悪く、幼い深見は母を助けてほしいと神仏に熱心に祈っていたという。宗教学者の沼田はこの時の経験が深見を宗教の道に進ませた大きな要因であると述べている[35]。救いを求めた母が信仰していた世界救世教に深見も幼少時から親しみ、高校入試前に正式に入信し熱心に活動した[36]。のちに大本の「お取次ぎ」で母の病が改善し、霊の実在や神霊による病気治療の可能性を確信するとともに大本にへ転向した。同志社大学に進学、大学生の頃から、他人の未来や心が透視できるという具体的な霊能力が現れたといい(深見は、在学中に六大神通力のうち天耳通力、他心通力、運命通力まで身に着け、25歳の時までに全てをマスターしたと称している)、学内外で知られるようになり大本の幹部出口京太郎に声をかけられ、友人と共に彼の指導を受けたという[35]。大本との関係は、大学を卒業してしばらくの間続いていた[35]。大学卒業後、1975年に大和ハウス工業に就職し営業マンになる。学生時代に大本の出口京太郎に諭された影響もあり、それまでの霊的側面中心の関心だけでなく、宗教のあるべき姿を知ろうと仕事の合間に宗教関連の読書に励み、大本と提携している銀座の道院紅卍字会で当代有数の知識人である事務局長の根本宏に師事して学び、全国から集まった霊能者・神霊家・超能力者たちと競い合い、多くの日本の重要人物との縁故を得た[37]。その後、道院紅卍字会で橘カオルと出会う[38][39]。根本に学び深い宗教関係の知識を持っていた深見は、「なにも持たず、知らず、生活から出た神意のポイントしか指摘しない」橘に衝撃を受け、教えを乞うようになり、家族や宗教的な仲間たちと共に橘家とその周辺に引っ越し、深見は橘のもとで修行し直した[40]。この時の仲間がのちに教団幹部となっている[40]。
深見とその家族、仲間たちは橘の家で1年間共同生活を行い[40]、1978年に深見は大和ハウス工業を退職した。その後、深見青山という名前で著作を刊行するようになる[3]。
1984年、コスモコアを設立し講演会活動を開始[41]。1985年、深見の著作『神界からの神通力』の出版にともない、会員数が増加し活動が活発化した[42]。1987年にコスモコアをコスモメイトに改称[42]。1988年に
1994年4月にコスモメイトをパワフルコスモメイトに改称[42]。1994年12月ワールドメイトに改称[42]。団体名の改称は、団体自身の器が大きくなるにつれ、さらなる救済力や普遍性を発揮する組織に生まれ変わるという意味があるという[43]。ワールドメイトに改称するタイミングで、教祖も青山から東州に名前を変えている[44]。「皇大神社」として1995年までに宗教法人の申請をし[45]、「ワールドメイト」として2012年9月に宗教法人となった[46]。
1992年から分派活動が顕在化し、内紛、従業員・元従業員との間で労働問題が起こり、元幹部や職員、信者との間でいくつかの裁判が起こり、脱税の疑いでの強制調査があり、批判的な報道もなされた[47][48](脱税の疑いについては、2006年に課税処分が取り消されている[49])。2000年に、深見とワールドメイトに関する記事が名誉棄損に当たるとして、ワールドメイトが雑誌「サイゾー」を提訴。以降、冬樹社、岩波書店、新潮社など、批判的な記事を書いた出版社を相次いで訴えている[3]。ワールドメイトの活動による被害を訴える声もあるとして、2002年に、ワールドメイトに批判的な弁護士が中心となり「ワールドメイト被害救済ネット」をたちあげている[3]。なお、沼田健哉は教団にとってマイナスの報道に関して、深見・橘に離反して解雇された元スタッフらによるアンチ活動の影響があるとも述べている[7]。
日本に183か所の支部、アメリカ合衆国やイギリスなどの国に10か所の支部がある。会員数は、2017年2月時点で7万7000人[50][注 1][51]、2019年1月時点で約8万2000人(公式サイト[52])。
- ワールドメイト支部の一つ(愛知県西尾市熊味町)
教義
ワールドメイトは天照大御神をはじめ八百万の神々を奉じ、神道系宗教団体を名乗るが、確固とした教義はないとされる[11]。深見の評伝(実質的に自伝)を書いた磯崎史郎は、「実在の神を掌握し、神を行じ、神人合一の道を極める」ことをワールドメイトの特色と定義している[27] 。「守護霊」と本人の「本霊」の合体を基礎とする「神人合一」[53]の追求をスローガンとする[54]。「弥勒の世」の五大項目 「神人合一」には5つの基準が関わることが橘カオルによって明らかにされた[53]。会員は社会生活の中で[27]、御魂磨きの日々を送ることを重要視している[43]。社会生活で生き抜いていくバイタリティー、エネルギーを、神なる御魂の輝きと捉え、「いのち」の輝きこそが「神なるもの」としている[27][55]。
深見の前世は聖徳太子であり、神名はスメラアサヒで、神界のピラミッドの頂点に立つ日之出大神[注 2]であり、国祖であり地球神霊界の神が憑依合体した存在であるという[20]。橘カオルはシャーマンであり審神者であり、神名をスメラアイスといい、木花咲耶姫であり、主神(スの神)の銀河系レベルの化身である白山菊理姫が主として憑依合体した存在であるとされ、前世は推古天皇ともされる[20]。沼田健哉は、深見は橘を自分より高く位置付けていると述べてる[56]。教団においては、大本の出口なおと出口王仁三郎になぞらえられている[57]。
- ミロクの世の五箇条
- 神人合一の人には、5つの要素(ミロクの世の五箇条)が備わっているとしている[43]。
- 信仰心:神が持っている真(学問)・善(宗教・福祉)・美(芸術)を憧れ敬い、会得しようとする姿勢を宗教心とする。その宗教心を、一生涯をかけて、貫き通す精神こそが信仰心であり、貫き通す精神のない人は、宗教心はあっても、信仰心はないということになる。また、宗教的分野に限らず、学問や芸術を一生涯かけて、貫き通す精神も「信仰心」としている。
- 愛念:隣人愛のような、普遍的な愛の念、思慕の念を指す。「相手よし、我よし」の相互の幸福と発展を願う心でもある。
- 秩序:善因善果、悪因悪果の法則という大秩序が我々の運不運に強く影響を及ぼしている。
- 調和:秩序が極まると、調和の心となる。秩序は縦、調和は横のつながりでもある。調和の心により、別々の物事が、互いに長所を発揮して、活かし合うことができる。
- 平和の心:上記の心を全て持ち合わせていても、平和の心がないと戦争が起こる可能性がある。世界の国々の為政者や国民が、平和の心を前に立てて手を取り合うときに、初めて戦争のない世界がやってくる。
- 死生観
- 人間は死んで肉体の衣を脱ぎ49日が過ぎると、生前の行動と想念によって積まれた功徳と業の相殺決算により、適合した霊界へ旅立つとする。大別すると、天国界、中有霊界、地獄界の三つに分けられる。天国界は第一天国、第二天国、第三天国というふうに別れ、さらに、ランクが細分化されている。また、ほかにも、死後に人間の魂が行く世界は、兜率天、霊国界、最奥人天界等があり、人間の個性が様々であるのと同様、霊界、神界のあり方も様々であるとする[43]。
- 他宗教との共存共栄
- 宗教は、棲み分けの理論で、共存共栄していくとし、世界中が一つの宗教に統一されることはないとしている。また、ミロクの世が訪れる頃には、世界中の人々に、自ずから宗教心(ミロクの世の五箇条)が備わっているため、宗教が普通となり、各国や、各宗派、各教団のイデオロギーが対立することはなくなるとしている。それを、逆説的に「世界中から宗教がなくなる」という大本教祖・出口王仁三郎の言葉を引用して表現することもある[55]。
- 神
- 神には、絶対神(主神)と顕現神(八百万の大神)がいるとする。絶対神は、宇宙創造の主神のことであり、無限絶対、無始無終、全智全能の主神のことである。人智を越えているため、有限なる人間には、到底、全てを理解することも、知覚することも難しいが、絶対神を思慕し敬うのである。顕現神は、絶対神(主神)の一部の働きを司る神であり、個別の働きや個性を持った神格をもち、人間を守護したり導くとする。各宗教の神や、神社の神は、顕現神であるという位置づけであり、ワールドメイトの神だけではなく、自分の願いに応じた働きがある顕現神への積極的な祈願も勧めている。仏や龍神、天狗、UFO、狐、蛇等は顕現神の一部や顕現神の眷属であるとする。こうした教えは、仏教、儒教、道教、神道に加え、大本、世界真光文明教団、世界紅卍字会などとも重なる部分がある[58]。
- 神道
- ワールドメイトの教えのベースとなっている「神道」とは、古くからの「神ながらの道(精神)」(古神道)の流れを組む[55]、自然と神霊と人との融和の道のことであるとされる。日本人の国民性となり、日本の文化を形成している、古くからの日本人固有の「生成化育進歩発展」の意識(精神的支柱)を指すという[59]。全国の有力神社や、産土神社への参拝を勧めており、毎年、ワールドメイトが主催をして、神社への団体参拝も行っている[27]。また、平和でフレンドリーでユーモアに満ちた神々と人々が仲良く生きるのが「神道」であり、ワールドメイトも同様の宗風であるとしている[60]。
- 無形の三宝と有形の三宝
- 「無形の三宝」を、神の御心を正しく取り次ぐ事、神の御心の取り次ぎによって顕現する神の稜威、神の稜威を継続するための無形の道としている。「有形の三宝」を、無形の道を社会に広めるための人、人々のためのより良き組織運営、組織を円滑に運営するための建物としている。この順番で尊び優先順位を遵守しているため、建物は質素で、教線拡大や信者獲得を第一とせず、社会への布施業に力を入れている。[60]
- ミロク(弥勒)の世
- 来るべきミロクの世(理想の世)が訪れる前には、巷で言われているような世界の崩壊とは言わないまでも、数々の困難や問題が世界中で吹き出してくるという。その困難を乗り越える過程で、世界の人々が一致団結し、世界連邦政府が樹立されると、ミロクの世の礎ができるのである。ワールドメイトは「和を以て貴しと為す」という精神をもって、他宗教との共存共栄を図り、世界平和に貢献しようとする立場を貫いている[43]。
- 皇大神御社(すめらおおかみおんやしろ)
- 「宗教団体を創ってはならない」「神は伽藍には降りない」という天啓に基づき、団体としてのあり方を模索した結果、神社という「来る者は拒まず、去る者は追わず」の形態こそが、神道のあるべき姿だと確信するにいたり、建立された。古くからある神社と同様、神職が日々奉仕しており、会員は祈祷等を受けることが出来る[43]。
- 後継者
- 深見東州は不犯を守り続けているため、実子はおらず、かねてから、「親類や係累からではなく、下から奉仕活動を積み重ねてきた、人望と天運と実力がある人が後継者となることが、会員にとって一番良い」という考えであった[61]。
系譜・研究
ワールドメイトは世界救世教・大本・世界紅卍字会に由来しているとされる[62]。島薗進によれば、大本、世界救世教、真光の系譜をひいており[63][注 3]、新宗教のなかで「神道」ナショナリズムを代表する団体である[64]。戦前の神道ナショナリズムのさまざまな要素が見て取れるが、戦後に発展した新宗教とは異なる要素が組み込まれ、新しい神道的ナショナリズムを形成しているとして2つの特徴をあげている。一つ目は、「日本精神の優秀性」や「その結果としての世界の融和統一」が見られるが、日本の経済的、政治、文化意識が見られる一方で、政治力の低さという弱さの自覚が見られるという点である。二つ目は、日本人の精神的支柱は神道であるとしているが、「偏狭な日本絶対主義を好まず、日本精神の優秀性を包容性という点に見いだすという点」を挙げている。国学や国家神道よりは大本の路線に違いが、先に述べた偏狭を好まず日本精神を包容性に見いだす等の側面や、密教的、神仏習合な側面がより顕著であると評している。また、島薗は、教祖の深見は英語が得意で、キリスト教や仏教、儒教や中国の禅語録にもよく通じており、新しい要素が見いだされるとしている[64]。神社界や神道学会とも密な連携を持つ[65]。[66]
沼田は、大本の出口なおが『おほもとしんゆ』で展開した内容と深見の若者をターゲットに軽いノリで提示された世界には、時代性とも言い切れない根源的な差があるように思われると述べており、 出口なお・出口王仁三郎より社会的に高い層の出身である橘と深見はごく最近まで剥奪体験に乏しく、中流階級が主流となった現代日本でも、大本教系というには民俗宗教の枠から大きく逸脱しているように見受けられる、と評している[67]。
特徴
個人主義的側面
布教の義務はなく、沼田健哉は個人参加型の教団の中でも最も拘束が低いものの一つと評している。書道、能楽、ダンス、ゴルフ、新体道、和歌、演劇、音楽など多様なサークル活動が行われている[68]。ただし、全ての会員の結束が緩やかなわけではなく、中核の会員が属する奉仕グループ「タマガキ会」は一定の組織化がされており、他の会員に比べても信仰への熱意が高い[69]。
教団員は正会員、準会員、法人「青龍会」で構成されており、会員はセミナーや催し物に参加でき、「御神示録」などの読み物、セミナーや新刊のチラシが送付される[25]。磯崎史郎は「来るもの拒まず、去るもの追わず」の民主的なあり方を心がけ、会員に布教義務は無く、神事や講演会への出席の義務はない」と述べている[27]。情報源は、メールマガジン、郵送物、電話、ウェブサイト、書籍、カセットやCD、ビデオやDVD等があり[70]、好きな情報源から自由に選択できる[71]。
秘法(呪術)・開運
沼田健哉が研究を行った1995年時点では、秘法重視で、教学の学習面が弱い傾向があったという[23]。深見は人々の魂を本来限られた人間しか行くことのできない星霊界に連れていく「星ツアー」、チャクラをすべて一気に開かせる「チャクラ全開大秘法」、守護霊をレベルの高いものに入れ替える「守護霊早め交代秘法」、悪い因縁のDNAを組み替える「血液転換秘法」、美容面に作用する「神霊美容術」、やせる秘法、ハゲが治る、身長が伸びる、視力をよくする、頭をよくする、酒の味を変えるなど、300以上の秘法(呪術)を身に着けているとされ、様々な秘法が実施されている[72]。セミナー等では、神霊を憑依させた深見と会員の間で、間違った人生哲学や性格などを矯正するという問答も行われ、これは禅問答に似ているという[73]。弁護士の山口広が1994年に発表した消費者問題の調査によると「金持ちになる。身長がのびる。美人になる。頭がよくなる。血統転換。大除霊。先祖供養」などとする「秘宝セミナー」の料金は高額な場合数百万円に及び[6]、悪霊を払い善霊を呼ぶ除霊の儀式には5万円ないし数十万円の料金であったと述べている[6]。
教団には深見以外に、神法悟得会などの有料の研修を受けた数百名の救霊師[注 4]・九頭龍師[注 5]・薬寿師[注 6]という神々とのお取次ぎをする選ばれた役職であるという存在がいる[74]。沼田は、会員数が少なかった(平成6年5月末時点で2万3千人)こともあり、秘法を授けられたり除霊を行う救霊師などの資格を得るためにはある程度まとまった金銭が必要であり、その上布教の義務もないため会員が増えにくいという特徴があったと述べている[23]。神に確実に祈りを届け開運する「神伝」の方法を教えるという「神法悟得会」が開催されている[75]。セミナーでは、秘法や占いも行われている[76]。
音楽芸術・福祉活動・スポーツ
若者など現代人にアピールするため、人種や民族・宗教の壁を超えるものとして、音楽芸術・福祉活動・スポーツを重視している。優れた音楽芸術は日本の神々を喜ばせるもので、新しい神の表現であり、真の神が降臨している証であり、また魂を磨く手段・理屈なく神を掌握する方法として重視している。音楽性の高さは、宗教活動が本物であると外国人や識者に良くアピールすると考えている[77]。世界的バレリーナのマイヤ・プリセツカヤと深見を含む会員が出演したバレエオペラや、深見のコンサートなど、様々なイベントが開催されている[7]。深見が主宰する定例セミナーには吉本新喜劇を中心に芸能人・有名人が招かれることもあり、深見や直弟子の西谷泰人らが歌うこともある[78]。スタッフや会員には音楽関係者が多い[78]。
ユーモア(ギャグ)
教祖の深見東州は、元来ユーモアやギャグにあふれた「ギャグ爆発の宗教家」であるとされ、本部や支部名にもギャグ混じりの名称を名付け、公式ウェブサイトや著書等でもギャグが連発されている。これらのユーモアが重視されているのは、「深見の圧倒的な学識と博覧強記な知識に裏付けられた深い思想や教えがあるためでもある」と、教団は述べている[60]。
ワールドメイトによると、ユーモア(ギャグ)を発信する理由は、3つある。第一の理由は世界的宗教教祖と共に宗教間対話と協調の運動を推進するためには、宗教的見地や足跡が認められるのみでなく、楽しくて面白い人間性、すなわち“sense of humor”がないと評価されないためであるという。第二の理由は、神道を明るく楽しい宗教であり、神道にとって「派手でユニークで、ユーモラスで爆発的に盛り上がる祭り」を、最重要の要素であると捉えているためであるという。祭りとは、穢れを払い「ハレ」の状態に戻す儀式であると捉え、非日常を徹底追求し祭りの魅力を前面に出して意義を解説し実践している背景があるために、ギャグが爆発しているという。第三の理由は、宗教を暗く真面目で深刻で近寄りがたいとか、閉鎖的で狂信的な儀式を行うイメージを持っている日本人が一般的に多くいるために、無知から来る偏見へのアンチテーゼとしてであるという。[60]
支援活動
皇大神御社での神社としての宗教活動のほか、全国各地の神社参拝、大祓神事[79]、エンターテインメント的な要素が強い講演会[38]、神人合一を目指す神法伝授、先祖供養や救霊、コンサートなどの芸術活動、チャリティーなどの慈善事業、国内外での福祉活動や公益活動、神道研究等への援助活動等を行っている[38]。また、苦難に対する救済のための宗教はすでに数多く存在するため、喜び、楽しみ、感動を創っていく新しい宗教を目指したいという教祖の意向により、従来にはなかったユニークな活動形態をとっている[43]。「ホープ・ワールドワイド(Hope Worldwide)」(キリスト教系国際チャリティー組織)やカンボジア王国と協力し、24時間診療の無料病院(シアヌーク病院)への支援と運営を継続的に行っている[80]。神道国際学会(現:NPO法人)を中心となって組織し、日本の神道界や神道学者の積極的な協力もある[81]。
阪神・淡路大震災支援
1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災により、関西の本部が所在する芦屋市茶屋之町周辺でも甚大な被害を受けたが、関西ワールドメイト会館は神棚も建物も無事で電力も使用可能であり、17日の地震発生直後から被災住民の避難場所として活用された[82]。教祖の深見東州は、震災当日に対策を協議して18日の早朝には救援物資が積まれた3台のトラックと被災地入りし、自ら陣頭指揮をとって日本赤十字社と連携しつつ救援物資を届けている[82]。19日には、スタッフ50人、会員の医師2人、看護婦2人が現地に到着[82]。関西方面の会員も加わり、おにぎりの炊き出し、布団・毛布300人分、水3トン、米500キロ、仮設トイレ88台、発電機13台、灯光機20台等を被災地に届ける[82]。物資費用は会員による救援基金で賄われた[82]。
東日本大震災支援
東日本大震災の3日後に救援隊を結成し、被災者に支援物資を届ける活動を2か月近く以上毎日続けた。英国の原子力専門機関から取り寄せたガイガーカウンター28台(当時は世界的に入手困難だった)で計測しながら福島原発付近にも進み、専門医より適切な除染を受けつつ物資を届けた[83]。震災における救援活動や寄付に対し、福島県いわき市、会津若松市と岩手県知事の達増拓也より、感謝状を受け取った[84]。
サンタのクリスマスプレゼント
1999年より毎年、サンタクロースに扮したボランティアが児童養護施設の子どもに、クリスマスプレゼントを渡す活動を行っている[85][86][87]。近年は、全国で約35,000人[88]の孤児の3分の1程度にプレゼントを渡しているとしている[89]。
カンボジア
- シアヌーク病院の建設と支援
1996年12月、カンボジアのプノンペンにワールドメイトの資金提供と同国政府の土地提供により、シアヌーク病院(24時間体制の無料救急病院)が建設される[90]。カンボジアでは20年近い内戦により医師や設備が不足しており、その現状に心を痛めた深見東州が、24時間無料診療の救急病院の建設を決意し設立に奔走した[91]。2003年1月、ワールドメイトの支援で第二病棟を建設し、最新医療機器を導入し、病床や研修用大会議室の増設を行う。[92]。2004年11月、ワールドメイトの支援により第3病棟を建設。2005年の時点では、「24時間、無料、救急」の病院はカンボジアに乏しかった[93]。カンボジアトップ医療レベルと総合教育を行うセンターとして、エイズ・マラリアの撲滅や医療を進めている[94][95][96]。「ホープ・ワールドワイド(Hope Worldwide)」(世界75か国で慈善事業を展開するNGO組織)とともに、今日まで共同で運営に当たる[80]。
- クメール・ルージュの犠牲者への義捐金
1970年代後半にクメール・ルージュによって虐殺された犠牲者の遺族に、義援金を渡している。カンボジアの平均的年収の半分にあたる金銭と米を、遺族本人に代表自らが手渡し、物心両面からの救済活動を行っている。遺族への義捐金は、傷つき、生きる望みを失いかけた人々を励ます大きなメッセージになるものと認識されている[97][98][99][100]。
- 小学校建設
カンボジアの学校がない貧しい地域の子供たちのために、小学校の校舎を20校建設したいというカンボジア王国首相フン・センの希望を受け、2005年から「フンセン小学校プロジェクト」を支援している[101]。
- バッタンバンの病院運営支援
2012年3月から、カンボジアのバッタンバンで、「ワールドメイト・エマージェンシー・ホスピタル(ワールドメイト救急病院)」を運営している[102]。
イギリス
英国国教会(元)カンタベリー卿ジョージ・ケアリーと協力し、宗教・言語・民族が複雑に絡み合う地域での青少年の正しい育成を目指し、2004年にエリザベス2世が開校した Lambeth Academy (Learning Trust) を支援した。2008年、「英国国教会聖職者のためのセントルークス病院」の白血病の子供達のための基金等を支援した[103]。
深見東州の実業・支援活動
深見によると、自身が事業を行う理由と宗教の関連性について「国民の8割がサラリーマンやOLなので、私自身もビジネス社会に身を置き、会社経営を続けることにしている。10円のありがたさ、100円の尊さがわかってこそ、ビジネス社会で人が何を求め、何に苦しんでいるのかが肌で感じられる。庶民に寄り添った生きた宗教ができるというわけだ。」とし、深見自身の判断基準としては「論理的に考える以上に、天啓を重んじる」点はあるにせよ、宗教と実業は切り離していると述べている[104]。ワールドメイトは、深見が経営する事業や慈善団体は、「法的にも、財政的にも、活動内容も、明確に区別」していて、「ビジネスと宗教の混同」はないとしている[105]。
深見が設立したボランティア団体
- 日本ブラインドゴルフ振興協会
深見はワールドメイトの福祉活動として日本盲人ゴルフ協会(現日本ブラインドゴルフ振興協会)を設立し、ブラインドゴルフの援助を行っている[33]。教団のイメージアップ戦略の一環とも言われるが、深見は「信仰理念に基づくコスモメイト(現ワールドメイト)の社会活動の一環」であると述べている[33]。
深見が経営する事業
- TTJ・たちばな出版
- 1987年にたちばな出版(現TTJ・たちばな出版)を設立する[注 9][107]。
宗教学者の沼田健哉は、以下の事業を、深見が設立し主宰する事業として挙げている。
- ジャパンペガサスツアー(旧ジャパンペガサスメイト)
- 会員のご神業旅行、神法悟得会、ホリデーツアー、ハネムーン、社員旅行などの企画、実施を行う旅行会社。会員向けの運勢向上の気学に基づくツアーも行っている[108]。
- ビッグビジネス経営経済研究所
- フランシス・フクヤマ・渡部昇一・深見による国際シンポジウムなど、大物を招いたイベントを主催している[7]。主に中小企業経営者を対象に、惟神の道を生かすという経営者セミナーを開くとしている。神業と社業の両立、信仰と経営の融合、経営の神力による打破などを指導し、金運・事業運が授かる秘法や経営難へのアドバイスも授けるという[108]。宗教性と経営指導が融合していることが特徴としている[108]。
脚注
注釈
出典
参考文献
- いのうえせつこ『新興宗教ブームと女性』新評論、1993年。
- 沼田健哉『宗教と科学のネオパラダイム 新新宗教を中心として』創元社、1995年。ISBN 978-4422140193。
- 溝口敦; 清水雅人『新宗教時代3』大蔵出版、1995年。
- 井上順孝; 孝本貢; 対馬路人; 中牧弘允; 西山茂『新宗教 教団・人物事典』弘文堂、1996年。ISBN 978-4335160288。
- 島薗進『ポストモダンの新宗教』東京堂出版、2001年9月25日。ISBN 978-4490204476。
- 井上順孝『現代宗教事典』弘文堂、2005年。
- Inken Prohl (2004). Gerrit Steunebrink, Evert Van Der Zweerde, Wout Cornelissen. ed. GCivil Society, Religion, and the Nation: Modernization in Intercultural Context: Russia, Japan, Turkey (Studien Zur Interkulturellen Philosophie / Studies in Intercultural Philosophy / Études De Philosophie Interculturelle). Rodopi Bv Editions
- 寺石悦章「深見東州の巡礼論」『四日市大学総合政策学部論集』7(1/2)、四日市大学、2008年3月、55-69頁、NAID 110007041650。
- Inken Prohl (2012). “New Religions in Japan: Adaptations and Transformations in Contemporary Society”. In Inken Prohl; John K. Nelson. Handbook of Contemporary Japanese Religions. Brill
- Katherine Marshall (2013). Global Institutions of Religion: Ancient Movers, Modern Shakers. Routledge
関連書籍
- 磯崎史郎 『深見青山 その天才の秘密をさぐる』勁文社、1991年
- 深見青山(著)、コスモメイト編集部編『究極の運命論 : 深見青山講演録1』橘出版 1989年 https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002048341-00
- コスモメイト編集部 編『コスモメイトの歩み 第1巻』橘出版 1991年(注記「コスモメイトニュース」合本 )https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002816284-00
- ワールドメイト編集部 編『ワールドメイトの歩み. 2 』たちばな出版 1999年(注記「コスモメイトニュース」合本、第1巻のタイトル: コスモメイトの歩み )https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000003048830-00
- ワールドメイト編集部 編『ワールドメイトの歩み 3』たちばな出版 2000年(注記「コスモメイトニュース」合本 )https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000003048831-00
- Inken Prohl (2006) (ドイツ語). Religiöse Innovationen: die Shintō-Organisation World Mate in Japan. Reimer. ISBN 9783496027942