プロケラトサウルス

プロケラトサウルス学名:Proceratosaurus)はジュラ紀中期バトニアンイングランドから発見された、全長3メートル以下の肉食性小型獣脚類恐竜の属[1]。鼻先に似た鶏冠が存在したためかつてはケラトサウルスの祖先と考えられていた[2] が、現在ではコエルロサウルス類ティラノサウルス上科の初期の属と考えられており[3]ティラノサウルスの基盤的な親戚にあたる[4]

プロケラトサウルス
ホロタイプ標本の頭骨
地質時代
中期ジュラ紀バトニアン
分類
ドメイン:真核生物 Eukaryota
:動物界 Animalia
:脊索動物門 Chordata
亜門:脊椎動物亜門 Vertebrata
:爬虫綱 Reptilia
亜綱:双弓亜綱 Diapsida
下綱:主竜形下綱 Archosauromorpha
上目:恐竜上目 Dinosauria
:竜盤目 Saurischia
亜目:獣脚亜目 Theropoda
階級なし:鳥吻類 Averostra
下目:テタヌラ下目 Tetanurae
階級なし:コエルロサウルス類 Coelurosauria
階級なし:ティラノラプトラ Tyrannoraptora
上科:ティラノサウルス上科 Tyrannosauroidea
:プロケラトサウルス科 Proceratosauridae
:プロケラトサウルス属 Proceratosaurus
学名
Proceratosaurus
Woodward, 1910
シノニム
下位分類(

模式標本はロンドン自然史博物館に所蔵されており、グロスタシャー州の Minchinhampton で1910年に貯水池の採掘中に発見された[4]

形態

推定される全長とヒトの大きさ比較
プロケラトサウルスの復元図

鼻孔間に形成された前上顎骨の棒状の構造が二股に分かれているほか、外鼻孔の長さが頭骨長の20%以上を占めて背側に傾斜しているという特徴がある。外鼻孔の長さは同じく鶏冠を持つ基盤的なティラノサウルス上科であるグアンロンと同様だが、グアンロンの外鼻孔はプロケラトサウルスのものと異なって水平である。前上顎骨の腹側の縁は相対的に短く、ティラノサウルス上科の特徴と合致する。反対に上顎骨は腹側の縁の大部分を占め、前眼窩窓も大きく発達している。前眼窩窓と外鼻孔の間にも穴が存在し、これは含気腔と繋がっていないため血管が通った孔と推測されている。[5]

前上顎骨と上顎骨では骨自体の大きさも異なるが、歯の大きさも同様であり、前上顎骨の歯は上顎骨の歯と比較して非常に小さい。さらに、前上顎骨の最前部の歯の断面がD字型をしているほか、歯の鋸歯状構造が前縁と後縁で大きく異なり、ティラノサウルス上科の特徴を満たしている。

完全には保存されていないものの、鼻骨の一部が突出して前上顎骨の上にまで張り出す鶏冠を形成しているのが大きな特徴である。この鶏冠が元になってケラトサウルスやオルニトレステスとの関連が疑われることとなった。CTスキャンの結果内部に空洞が存在することが確かめられており、グアンロンの鶏冠と同様に含気性である可能性がある。なお、鶏冠は前方で膨らみを帯びている。頭蓋骨の頭部が欠損しているため、グアンロンと同様に頭部の奥まで発達していたか、ケラトサウルスのように先端部のみに制限されていたかは不明である。[5]

分類

初めてプロケラトサウルスを研究したアーサー・スミス・ウッドワードは、鼻に存在する鶏冠が類似していることから、もともとプロケラトサウルスを後期ジュラ紀ケラトサウルスの祖先と考えていた[6]フリードリヒ・フォン・ヒューネにより1930年代に行われた研究でもこの解釈が支持され、彼はプロケラトサウルスとケラトサウルスがともにコエルロサウルス類を代表すると考えた[7]

ケラトサウルスがより原始的な獣脚類であってコエルロサウルス類でないことが判明した後、1980年代にプロケラトサウルスの分類が見直された。グレゴリー・ポールは、鼻の鶏冠に基づいてプロケラトサウルスをオルニトレステスに近縁な属とした(なお、オルニトレステスの鶏冠は後に否定されることとなる)。彼はプロケラトサウルスとオルニトレステスはいずれもコエルロサウルス類ではないとし、代わりに原始的なアロサウルス上科とした。さらに彼は、遥かに大型の獣脚類であるピヴェテアウサウルスをプロケラトサウルスと同属扱いし、ピヴェテアウサウルスをジュニアシノニムとした[8]。しかし両者の化石が発見される岩石が重複したことはなく、彼らが別の属であることが後の研究で示された[5]

2000年の研究では証拠もなくプロケラトサウルスはケラトサウルス科に位置付けられていたものの、21世紀初頭の系統学的研究により、プロケラトサウルス(およびオルニトレステス)は最終的にコエルロサウルス類に位置付けられ[9]、ケラトサウルス科やアロサウルス科とは縁遠いとされた。2004年に行われたトーマス・R・ホルツ・Jrによる系統解析においても、弱い証拠ではあったがプロケラトサウルスはコエルロサウルス類に分類され、またこれも弱い証拠ではあるがオルニトレステスとの近縁性も示された[5]

プロケラトサウルスの関係性についての最初の主要な再評価は、Oliver Rauhut らが2010年に発表した。彼らは、プロケラトサウルスが実際にはコエルロサウルス類であり、さらに後期白亜紀の巨大なティラノサウルスに繋がる系統であるティラノサウルス上科に分類されると結論付けた。さらに、彼らはプロケラトサウルスが中国で発見されたティラノサウルス上科の恐竜グアンロンに最も近縁であることを発見した。彼らはこの2つの属を含む分類群をプロケラトサウルス科と命名して「ティラノサウルス、アロサウルスコンプソグナトゥスコエルルスオルニトミムスディノニクスよりもプロケラトサウルスに近縁な全ての獣脚類恐竜」として定義した[5]

以下のクラドグラムは Loewen らによる2013年の研究に基づく[10]

ティラノサウルス上科
プロケラトサウルス科

プロケラトサウルス

キレスクス

グアンロン

シノティラヌス

ジュラティラント

ストケソサウルス

ディロング

エオティラヌス

バガラアタン

ラプトレックス

ドリプトサウルス

アレクトロサウルス

シオングアンロン

アパラチオサウルス

アリオラムス・アルタイ

アリオラムス・レモトゥス

ティラノサウルス科

脚注