ハビエル・ミレイ

アルゼンチンの政治家・経済学者

ハビエル・ヘラルド・ミレイスペイン語: Javier Gerardo Mileiスペイン語発音: [xaˈβjeɾ xeˈɾaɾ.ðo miˈlej]1970年10月22日 - )は、アルゼンチン政治家経済学者作家。第59代大統領。アルゼンチン中央銀行を廃止して、米ドルをアルゼンチンの通貨に制定させるなど過激な主張が多いことから、「アルゼンチンのトランプ」という異名をもつ[1]オーストリア学派の経済学者として、アルゼンチンの歴代政権の財政政策に対して、「政府支出を削減すべきだ」と批評している。

ハビエル・ミレイ
Javier Milei
(2024年)
アルゼンチンの旗 アルゼンチン
第59代大統領
就任
2023年12月10日
副大統領ビクトリア・ビヤルエル
前任者アルベルト・フェルナンデス
アルゼンチンの旗 アルゼンチン
代議院議員
任期
2021年12月10日 – 2023年12月10日
個人情報
生誕ハビエル・ヘラルド・ミレイ
(1970-10-22) 1970年10月22日(53歳)
アルゼンチンブエノスアイレスパレルモ地区
政党リバタリアン党 (2021年 - )
協力政党自由進歩党英語版(2020年 – 2021年)
非婚配偶者ファティマ・フローレス英語版(2023年 – )
出身校ベルグラノ大学英語版
トルクァト・ディ・テラ大学
署名

2023年11月に行われた大統領選挙英語版では、前大統領のペロン主義に則った支配が財政危機を引き起こしていることを批判。財政政策の転換を公約として、得票率55.69%対44.31%で、セルヒオ・マサ英語版経済相を破り、当選[2]

来歴

ブエノスアイレスでイタリア系の家庭として生まれ育つ[3]。父はバス運転手であったが[4]、幼少期の頃には両親から児童虐待を受け、10年間両親と口を聞かなかったと彼は語っている。そんな不遇の日々を送っていたミレイにとって、妹のカリーナと母方の祖母が心の支えだった[5]。学生時代には間欠性爆発性障害の兆候があったことから、ミレイは変人を意味するエル・ロコ(El Loco)という異名が付いていた。 ローリング・ストーンズのカバー・バンド『エベレスト』ではフロントマンとして活動していた[6][7]。高校時代にはCAチャカリタ・ジュニアーズゴールキーパーを務めていた経験がある。ラウル・アルフォンシン政権下で起きた財政危機を目の当たりにし、高校卒業と同時にサッカーをやめ、経済学に興味を持つ。

1992年にベルグラノ大学で経済学の学位を取得、トルクァト・ディ・テラ大学で経済学の修士号を取得する[8]。21 年以上にわたり、マクロ経済学やミクロ経済学、経済学で使用する応用数学の教授として勤務していた。アルゼンチン国内や海外各地で講演を行い、50以上の学術論文を執筆している[9]投資紛争解決国際センターのアルゼンチン部門コンサルタント、HSBCホールディングスアルゼンチン支部シニアエコノミストを歴任。世界経済フォーラムのメンバー、国際商業会議所顧問としての勤務経験を持つ[10]。ミレイはアルゼンチン国内のテレビで最も多くインタビューされた経済学者であり、インタビュー回数は235回、出演時間は合計193,347秒であった[11]

政界進出

2021年

2010年代、ミレイはアルゼンチンの討論番組で悪名高い政治活動家としての地位を確立する。ミレイは討論相手に対する毒舌や威圧的な表現が特徴であった。特に討論番組に出演したブエノスアイレス市長のオラシオ・ロドリゲス・ラレッタ英語版への罵倒は激しく、アルゼンチンで反社会的な活動家として恐れられるようになる[12]。アメリカの上院議員であるテッド・クルーズはヴィヴィアン・カレーサとミレイの熱烈な討論動画をツイッターで共有し、冗談でクルーズはミレイをアメリカ合衆国大統領選挙討論会に招待したいと提案していた[13]。2019年、一部のメディアはミレイをアルゼンチンで最も影響力のある人物の1人に挙げた。2020年からミレイは、世論で不支持率が高いアルベルト・フェルナンデス政権に対する抗議活動を激化させる。

2020年、ミレイは自由前進党を結成。この政党は自らを「様々な政党で構成され、リベラルな政策を推進するために創設された、あらゆる社会的状況の男女を招集し、平等な同盟を組んでいる」と強調した。さらにミレイは「私達が先進国であった1900年初頭に戻るために必要な経済、政治、社会の活性化に貢献したい」と述べている[14]。自由前進党の国民議会候補者に国家再編成プロセスの擁護者がいた事で物議を醸している[15]。下院議員の選挙活動中のミレイはブエノスアイレス近郊で道行く人と交流しながら、2022年5月までに、彼は世論調査で支持率を伸ばした。ミレイの考えは1990年代の経済危機に生まれ育った世代から共感を得て、2020年の経済停滞に直面している30歳未満の有権者の心を動かした。ミレイはアルゼンチンの政治構造は「役に立たない、寄生的な人々で構成されている」とした上で、「アルベルト・フェルナンデス政権は国民に課せられた税金によって資金を賄う犯罪組織である。絶対にフェルナンデス政権から金を奪還しなければならない」と選挙活動で述べた[16]

2021年から代議院議員に就任したミレイは、議会を欠席していることが多いと各党から指摘された[17]。欠席した日数が多いにもかかわらず、議員の月給として規定された700万ペソを受け取っている[18]。2023年7月には公職選挙法違反による容疑で捜査を受けたが、ミレイはこれを自分の信用を失墜させるための政治的工作だと一蹴。直ちに捜査を中止するよう、検察に求めた[19]

2023年5月にはインフレが高まり、ミレイの支持率が上昇する[20]。ミレイは、自国通貨の価値が過去4年間で90%も急落したことを指摘した上で「排せつ物」以下の価値しかなくなったと主張。経済政策としてアルゼンチン・ペソを廃止してアメリカ合衆国ドルを採用することを公約とした[21]。また、同年8月に行われた大統領予備選挙英語版では銃規制撤廃と臓器売買の自由販売を許可すると示唆し、物議を醸した[22]。2020年に承認されたアルゼンチン国内での中絶を容認する自主中絶法案を却下させるつもりだとミレイは述べている。アルゼンチンのテレビ司会者であるアレハンドロ・ファンティーノスペイン語版のインタビューで中絶に言及し、「私は中絶に反対だ。それは生きる権利に反するからである。少なくとも私は国民投票を実施したい、そして結果に則り、中絶法は廃止されるであろう。しかし、アルゼンチン人がするかどうか見てみましょう。母親の胎内で無防備な人間が殺害されたと信じている。」と語っている[23]。同党の選挙綱領によると、ミレイは「銃の使用を、国民による合法的かつ責任ある使用の保護を守る場合に適用が認められること」を提案している[24]。8月13日の予備選挙では大方の予想に反して得票率30%で1位となり、翌14日朝にアルゼンチン・ペソは18%近く下落した[25]

10月22日に投開票された大統領選挙英語版では30%の票を獲得し、36.8%のセルヒオ・マサ英語版に次いで2位となり決選投票に進出[26]。決選投票の直前には「ミレイの勝利の可能性が高く、フェルナンデス大統領による急進的な政策失敗により、インフレと為替レートへのさらなる圧力が生じるだろう。経済情勢の悪化は、危機が深刻化しているため、ミレイが有利になるだろう」と政治評論家より予測された[27]。11月19日の決選投票でミレイは55.69%の票を獲得し、44.31%にとどまったマサを逆転で破り当選[2]。その後12月10日に大統領に就任した[2]

アルゼンチン大統領

内政

  • 省庁を18から9に、官庁は106から54に半減[28]
    就任当日、ミレイは自身初の大統領令で19ある省を経済英語版外務英語版治安英語版司法英語版保健英語版内務英語版国防英語版インフラ人的資源スペイン語版の9つへと半減させた[29]
  • アルゼンチン・ペソの切り下げ[28][30]
  • 国営広告の1年間停止[28]
  • 開始していない公共事業計画の停止[28]
  • エネルギーと輸送関連の補助金の削減[28]
  • アルゼンチンの政治的習慣である家族や友人との労働契約の停止
  • 児童手当とフードカード(低所得者、無所得者が栄養のある食品を購入できるように支援する制度)に割り当てられた金額を倍額[28]
  • 輸入システムの簡易化
  • 公務員を7000人削減する政令を公布[31]
  • 最低賃金の引き上げを30%に制限[32]
  • 学用品の購入と私立学校の授業料の支払いを支援するための「教育バウチャー」 の開始と減税[33]

外交安全保障

  • BRICSへの不参加を決定[34]
  • アルゼンチン軍内でのジェンダーに関する単語を禁止[35]

語録

  • アルゼンチン人は、見返りのない変化への願望を圧倒的に表明しています。後戻りはなく、私たちは何十年にもわたる失敗と無意味な紛争を埋めてきました。平和と繁栄、自由と進歩の時代が始まってきている。[36]
  • ベルリンの壁の崩壊が世界にとって悲劇的な時代の終わりを告げたように、これらの選挙は私たちの歴史の転換点をマークしました。[36]
  • 今日、私たちは国の再建を始めます。[36]
  • 道の終わりには光があるだろう。[36]
  • 貧困から抜け出す唯一の方法は、より多くの自由です。[36]
  • 100年の失敗は1日で元に戻すことはできませんが、1日が始まり、今日がその日です。[36]
  • 私は快適な嘘よりも不快な真実を好む。[36]
  • この挑戦で天の力が私たちと共にありますように。それは難しいだろうが、私たちは成功するだろう。自由万歳![36]

脚注

外部リンク

公職
先代
アルベルト・フェルナンデス
アルゼンチンの大統領
2023年 –
次代
(現職)