米国電気電子学会(Institute of Electrical and Electronics Engineers)のスマートシティ: "スマートシティは、テクノロジー、政府、社会をまとめ、次のような特徴を実現する。スマートシティ、スマートエコノミー、スマートモビリティ、スマート環境、スマートピープル、スマートリビング、スマートガバナンス"
“Edison Electric Institute”の元副社長である“David K. Owens”によると、スマートシティが備えるべき重要な要素は、統合通信プラットフォームと「ダイナミック・レジリエント・グリッド(動的弾力性ある送配電網)」の2つである[33]という。
データ収集
スマートシティは、OSI参照モデルの「レイヤー(層)」による普遍化で概念化されている。スマートシティは、都市の公共インフラと都市アプリケーションシステムを接続し、収集したデータを認識レイヤー、ネットワークレイヤー、アプリケーションレイヤーの3つのレイヤーで受け渡すことで構築される。都市アプリケーションシステムは、都市内のさまざまなインフラを制御する際に、データを使ってより良い判断を下すことができる。認識レイヤーは、センサーを使ってスマートシティ全体のデータを収集する場所である。このデータは、カメラ、RFID(Radio Frequency Identification)、GPSなどのセンサーを通じて収集される。認識レイヤーは、収集したデータを無線通信でネットワークレイヤーに送信する。ネットワークレイヤーは、認識レイヤーからアプリケーションレイヤーへ収集したデータを転送する役割を担っている。ネットワークレイヤーは、都市の通信インフラを利用してデータを送信するため、攻撃者に傍受される可能性があり、収集したデータや情報を秘匿する必要がある。アプリケーションレイヤーは、ネットワークレイヤーから受け取ったデータを処理する役割を担っている。アプリケーションレイヤーは、処理したデータを使って、受信したデータに基づいて都市のインフラストラクチャをどのように制御するかを決定する[34][35]。
デジタル: スマートシティの個人とデバイスをつなぐには、サービス指向のインフラが必要である。これには、イノベーションサービスや通信インフラが含まれる。“Yovanof, G. S. & Hazapis, G. N.”は、デジタルシティを「ブロードバンド通信インフラ、オープンな業界標準に基づく柔軟でサービス指向のコンピューティングインフラ、政府およびその職員、市民、企業のニーズを満たす革新的サービスを組み合わせた、つながったコミュニティ」[38]と定義している。
”Moser, M. A."[54]によれば、1990年代以降、ITに関わるユーザーの裾野を広げる戦略として、スマートコミュニティ運動が具体化した。これらのコミュニティのメンバーは、関心を共有する人々であり、政府や他の制度的組織と連携して、日常の行動のさまざまな結果により悪化した日常生活の質を向上させるために IT の利用を推し進めようとするものである。”Eger, J. M.”[55] は、スマートコミュニティは、その社会的・ビジネス的ニーズを解決する触媒としてテクノロジーを展開することを意識的かつ合意的に決定する、と述べている。このようなITの活用とその結果としての改善は、制度的な支援なしにはより厳しいものになる可能性があることを理解することが非常に重要であり、実際、スマートコミュニティ構想の成功には、制度の関与が不可欠である。”Moser, M. A."[54] は「スマートコミュニティの構築と計画はスマートな成長を求める」と述べている。交通渋滞、学校の過密、大気汚染など日常的な問題の悪化傾向に対応するためには、市民と組織の連携によるスマートな成長が不可欠である。ただし、技術の伝播はそれ自体が目的ではなく、新しい経済社会に向けた都市の再発明を行うための手段に過ぎないことに注意が必要である。つまり、スマートシティを成功させるためには、政府の支援が必要であると断言できる。
スマートシティは、街灯、スマートビル、分散型エネルギー源(DER:Distributed Energy Resources)、データ分析、スマート交通など、さまざまな項目の「スマートなつながり」によって動いている。中でも、エネルギーは最も重要である。だからこそ、電力会社(utility companies)がスマートシティで重要な役割を果たすのである。電力会社は、市当局やテクノロジー企業、その他多くの機関と連携し、アメリカのスマートシティの成長を加速させた主要なプレーヤーの一人である[59]。
EU(The European Union)は、その大都市圏の都市の成長を「スマート」に実現するための戦略を考案することに絶え間ない努力を払ってきた。[66][67] EUは「欧州のデジタルアジェンダ」の下で様々なプログラムを展開している[68]。 2010年には、公共サービスと生活の質の向上を目的とするICTサービスにおけるイノベーションと投資の強化に焦点を当てた。英国拠点のアラップ(Arup Group Limited)はスマート都市サービスに関する世界市場は2020年までに年間4千億ドルとなると予測している[69]。
2009年に始まったアムステルダムのスマートシティ構想[126]は、現在、地域住民、行政、企業が共同で開発した170以上のプロジェクトを含む。[127] これらのプロジェクトは、無線機器による相互接続プラットフォーム上で動作し、都市のリアルタイムな意思決定能力を向上させる。アムステルダム市は、交通量の削減、エネルギーの節約、公共の安全の向上をプロジェクトの目的としている。[128] 住民の取り組みを促進するために、市は毎年「Amsterdam Smart City Challenge」を実施し、市の枠組みに合ったアプリケーションや開発の提案を受け入れている。[129] 住民が開発したアプリの例として、駐車場の所有者が料金を払って人々に貸し出すことができる「Mobypark」[130]がある。このアプリから生成されたデータは、市がアムステルダムの駐車需要や交通の流れを把握するために利用することができる。多くの家庭でスマートエネルギーメーターが提供されており、これらに対するインセンティブは実際にエネルギー消費を削減している。[13][131] このほか、自治体が街灯の明るさを制御できるフレキシブル街灯(スマート照明)[132]や、市が交通量をリアルタイムで監視し、特定の道路の現在の走行時間に関する情報を流して、運転者が最適なルートを決定できるスマート交通マネージメント[133]などの取り組みも行われている。
バルセロナ(Barcelona)
バルセロナは、「CityOS」戦略の中で、「スマートシティ」アプリケーションといえるプロジェクトを数多く立ち上げている。[134] 例えば、ポブレノウ公園(Parc del Centre de Poblenou)の灌漑システムにセンサー技術が導入されており、植物に必要な水のレベルに関するリアルタイムデータが園芸作業員に送信される仕組みになっている。[135][136][117][132] また、バルセロナは、最も一般的な交通の流れのデータ分析に基づき、主に垂直、水平、斜めのルートを利用し、多くのインターチェンジを有する新しいバスネットワークを設計した。[133][137] 複数のスマートシティ技術の統合は、スマート信号機の実装によって確認でき[134][138]、バスは青信号が多くなるよう最適化したルートで走行するようになっている。また、バルセロナで緊急事態が発生すると、緊急車両のおおよそのルートが信号システムに入力され、GPSと交通管理ソフトウェアを組み合わせ、車両が近づくとすべての信号が青になり、緊急サービスが遅れずに現場に到着できるようになっている。このデータの多くは、“Sentilo Platform”によって管理されている。[135][136][139][140] Sentiloは2012年11月よりバルセロナ市が主導し開発しているIoT企業である。バルセロナ市の中での実務担当部門はバルセロナ市情報局(IMI:Munnicipal Institute of Informatics)である。SentiloはIoTなどセンサーデータのための基盤であるが、都市に関するデータを集約して活用するための基盤"City OS"を構成する要素のうちの一要素として位置づけられている。[141]
2017年夏、オハイオ州コロンバス市はスマートシティの追求を開始した。同市はアメリカン・エレクトリック・パワー・オハイオ(American Electric Power Ohio)と提携し、新たな電気自動車充電ステーション群を誕生させた。コロンバス市のような多くのスマートシティは、今回のような協定を利用して、気候変動への備え、電気インフラの拡充、既存の公共車両の電気自動車への転換、通勤時の乗り合いへのインセンティブづくりを進めている。このような取り組みに対して、米国運輸省(the U.S. Department of Transportation)はコロンバス市に4,000万ドルの補助金を交付した。また、市はバルカン社(Vulcan Inc.)から1000万ドルを受け取った。[143]
電気自動車用充電スタンドの新設場所選びに電力会社が関与した重要な理由のひとつは、データを収集するためだった。“Daily Energy Insider”によると、AEP(American Electric Power Ohio)のインフラと事業継続のグループは、「使われない、維持されない場所にインフラを置きたくない。集めたデータは、将来的にもっと大きな市場を構築するのに役立つ」と述べている。[143]
世界経済フォーラム(The World Economic Forum)の別の記事で、コペンハーゲン・ソリューション・ラボ(Copenhagen Solutions Lab.)のプログラムディレクターであるMarius Sylvestersenは、官民のコラボレーションは、透明性、データを共有する意欲、そして同じ価値観によって築かれなければならないと説明している。そのためには、参加を希望する組織が、特にオープンな考え方を持つことが必要である。オープンなコラボレーションと知識の共有を促進するために、コペンハーゲンソリューションラボは2016年に“Copenhagen Street Lab.”を立ち上げた。ここでは、“TDC”、“Citelum”、“Cisco”などの組織が“Copenhagen Solutions Lab.”と協力して、都市や市民の問題に対する新しい解決策を見出すために活動している。
ディジョン(Dijon)
フランスのスマートシティであるディジョン首都圏プロジェクト「オン・ディジョン」(OnDijon)[147]では、その一部の文教地区整備の竣工後の2021年9月に2大学が移転してきて、オン・ディジョン プロジェクトに日々エネルギー消費量などのデータを提供している。この文教地区整備をヴァンシー建設株式会社が請け負い、同社は、工事着手前に多様な分野の関係者が共通の言語でデータを作成して交換・共有する必要があるため、BIM協働仕様(BCF:BIM Collaboration format)を定めたうえで、BIMマネジャーに加えて、多様な分野の関係者が作成するデータの品質確保のために「CIMマネジャー」(City Information Management Manager)を配置し、エネルギー・パーフォーマンスを含めた運用段階でのデータ共有を可能とした。なお、建築物及び土木構造物については、ISO 19650シリーズに準拠した国際的に相互運用可能なデータをオン・ディジョンのデータ・ベースに格納している。
ドバイ(Dubai)
2013年、UAEの副大統領であるシャイフ・モハンマド・ビン・ラーシド・アル・マクトゥーム(Shaikh Mohammad bin Rashid Al Maktoum)が、2030年までにドバイをスマートシティにするための100以上の取り組みを盛り込んだ「スマートドバイ」プロジェクトを開始した。このプロジェクトは、民間部門と公共部門を統合し、市民がスマートフォンを通じてこれらの部門にアクセスできるようにすることを目的としている。
スペインのスマートシティ[167]の先駆けであるマドリードは、地域サービスの統合管理を行う“MiNT Madrid Inteligente/Smarter Madrid”プラットフォームを採用している。これらには、ごみ収集、リサイクル及び公共スペースや緑地帯、その他の持続可能で計算機によるインフラのマネージメントが含まれる。[168] このプログラムは、IBMのINSAと共同で運営されており、INSAのビッグデータや分析能力、経験を活用している。[169] マドリードは、まず社会問題を特定し、それに対応する個々の技術やネットワークを特定し対処するボトムアップ型のスマートシティへのアプローチを取っていると考えられている。[170] このアプローチには、“Madrid Digital Start Up”プログラムによるスタートアップ(新興)企業の支援・認定も含まれている。[171]
“CityVerve”は、オープンデータの原則に基づき、交通・移動、健康・社会保障、エネルギー・環境、文化・公共領域の4つの主要テーマのアプリケーションを結びつける「プラットフォーム・オブ・プラットフォーム」(platform of platforms)[169][175]を組み込んでいる。これはまた、このプロジェクトが拡張可能性を有し、世界中の他の場所に再展開することができることを保証する。
ミルトン・キーンズは、スマートシティを目指すことを公約に掲げている。現在、そのための仕組みとして、自治体、企業、大学、第3セクターが連携した「MK:Smartイニシアチブ」[178]がある。このイニシアチブの焦点は、エネルギー使用、水使用、輸送をより持続可能なものにし、同時に市の経済成長を促進することである。このプロジェクトの中心となるのが、最先端の“MK Data Hub”の構築で、様々なデータソースから市のシステムに関連する膨大なデータの取得と管理を支援する。エネルギーや水の消費量、交通機関のデータ、衛星技術で取得したデータ、社会・経済データ、ソーシャルメディアや専用アプリからのクラウドソーシングデータなど、さまざまなデータソースが含まれる。
カリフォルニア州サンリアンドロ市は、工業の中心地からIoT(Internet of things:インターネットを通じて機器同士が通信する技術)のテックハブへと変貌を遂げようとしている。カリフォルニア州の電力会社“PG&E”は、この試みと、IoTセンサーで監視される分散型エネルギーネットワークを街全体に構築するスマートエネルギー試験プログラムを、同市と共同で行っている。その目的は、複数のエネルギー源との間で電力を受電し、再分配するのに十分な容量を持つエネルギーシステムを市に提供することである。[190]
台北市は2016年から“smarttaipei”プロジェクトを開始し、ボトムアップの仕組みという新しい発想や概念を取り入れられるよう、市役所行政の文化を変えていくことを大きなコンセプトとしている。台北市政府は「台北スマートシティプロジェクトマネジメントオフィス」、通称「PMO:Taipei Smart City Project Management Office」を設立し、スマートシティの開発を実施、ガバナンスしている。その後、イノベーションのマッチングプラットフォームを構築し、産業界と政府のリソースを結合して、市民の要求を満たすスマートソリューションを開発する。
PMOは産業界からの提案を受け入れ、台北市の関連部署と交渉して新しい概念実証(PoC:proof of concept)プロジェクトを開始するのを支援し、市民が必要な革新的技術にアクセスできるようなマッチング・プラットフォームを提供する。現在、150[200]以上のPoCプロジェクトが設立されているが、終了したプロジェクトはわずか34%である。
研究
大学の研究所はインテリジェントシティのプロトタイプを開発した。
IGLUS(INNOVATIVE GAVERNANCE OF LARGE URBAN SYSTEMS)は、EPFLが主導する都市インフラのガバナンスシステム開発に焦点を当てたアクションリサーチ・プロジェクトである。IGLUSは“Coursera”を通じてインターネット上で誰もが無料で受講できる大規模な開かれた講義(MOOC:Massive Open Online Course)を発表している。[201]
インテルシティ(IntelCities)[203]は電子政府、計画システム、市民参加のための研究コンソーシアムであり、URENIO(Urban and Regional Innovation)は知的都市の研究と計画を推進しながら、戦略的知能、技術移転、共同イノベーション、インキュベーションに焦点を当てたイノベーション経済[204]のための知的都市プラットフォームを開発[205]した。
テルアビブ大学(Tel Aviv University)のLAMBDA(Laboratory for AI, Machine Learning, Business & Data Analytics)は、スマートシティにおけるデジタルライフ、スマート交通、人間の移動パターンに焦点を当てている。[207]