チャンプルー
チャンプルー | |
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種類 | 沖縄料理 |
発祥地 | ![]() |
地域 | 沖縄県 |
主な材料 | 豆腐、野菜、豚肉 |
概要
チャンプルーは沖縄を代表する家庭料理の一つ[* 1][* 2]。沖縄方言で豆腐と野菜などを油で炒め合わせた料理を意味する[* 3][* 4][* 5]。
その種類は豊富で、豆腐と炒め合わせる主な野菜の名前を頭につけて「ゴーヤーチャンプルー」「タマナーチャンプルー」などと呼ばれる[1][2]。
チャンプルーは、テレビやラジオの番組で調理法を沖縄の食材とともに紹介されて[3][* 6]、全国的にも家庭料理として広まっている[4][* 7]。
標準語では簡略的に炒め物と表記されることも多く、沖縄県や沖縄栄養士会のホームページなどでも炒め物と紹介されている[5][6]。1996年から2001年の国語教科書[7]に掲載された椎名誠の短編小説「ヤドカリ探検隊」のなかでも「チャンプルーというのは、いためものって意味だ」とある[8]。
なお、チャンプルーは「混ぜ合わせる」ことの例えとして広く用いられている[9]が、沖縄方言のチャンプルーは名詞であり[* 8]「混ぜ合わせる」という意味は本来ない[10][11][* 9]。
定義
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/6/6f/Somen_chanpuru_%28Okinawan_fried_somen%29.jpg/250px-Somen_chanpuru_%28Okinawan_fried_somen%29.jpg)
チャンプルーは島豆腐を用いた料理なので豆腐を欠かすことができない[* 10][* 11][* 12]。アカヤチー(赤焼き=焼き色をつける)した豆腐と炒め合わせることが一般的な野菜炒めとの大きな違いとなっている。
1920年生まれの料理研究家 尚道子はチャンプルーを「豆腐入り炒め物」と訳して料理番組や書籍で全国に紹介し[12][* 13]、琉球大学の翁長君代 教授も「必ず豆腐が入るのがチャンプルーです。時には、豚肉や玉子が加わることはあっても、豆腐ぬきではチャンプルーにはなりません[13]」と定義している。
沖縄出身の詩人である山之口貘は「どのチャンプルーの場合にも豆腐も一緒にするのが普通である[14]」「豆腐の料理といえば、沖縄出身のものなら誰もがチャンプルーを思い出さずにはいられないはずである[15]」と記し、沖縄出身のエッセイストである古波蔵保好[* 14]も「強い火で鍋のあぶらを焼き、手早く豆腐などを炒めた料理[16]」と豆腐を用いた料理としている。
沖縄県や沖縄県栄養士会が公開しているチャンプルーのすべてのレシピでは豆腐が食材として用いられ[5][6]、NHKの料理番組きょうの料理でも豆腐を中心にした油炒めと紹介されている[* 15]。
沖縄民謡の御馳走数え歌[17]で「ゆし豆腐 豆腐やかかすな チャンプルー 豆腐ぬカーシ」と歌われているほか、沖縄県のしまくとぅばハンドブックでも「ちゃんぷるーんり いーしぇー とーふぬ いっちょー しんかいる いーんどー(チャンプルーは、豆腐の入っているものの事を言うんだよ)」[18]という例文が入っているなど、さまざまな形でその定義を後世に伝えていこうとしている。
一方、豆腐を使っていなくても、沖縄料理の炒め物を全般をチャンプルーと呼ぶ事例も増えてきている[* 16]。例えば、ソーミンチャンプルーやフーチャンプルーは豆腐が入っていなくてもチャンプルーと呼ばれることが多い[* 17][* 18]。
素材・調理法
素材として用いたいのは島豆腐である。島豆腐は、民俗学者の柳田国男が「野武士の如き剛健なる豆腐[19]」と評し、小説家の火野葦平が「琉球豆腐は釘がうてるほどかたい[20]」と作中で形容するほど硬く[* 19][* 20]、季節の野菜と炒め合わせても崩れない。島豆腐の入手が難しい沖縄県外では水切りをした木綿豆腐や厚揚げなどで代用されている。
庶民料理としてのチャンプルーは島豆腐と名前を冠する1種類の野菜を豚脂で手早く強火で炒め合わせて、豆腐と季節の野菜を味わう簡素な炒め物[21]だったが、しだいに鰹節や豚肉、卵が入り、野菜も数種類が用いられるようになり[22]、やがてポーク・コンビーフハッシュ・トゥーナなどの缶詰類[* 21]が入るようになった[23]。
素材を豚脂で炒めるのが本来の調理法だが、現在ではサラダ油などを引いて炒め合わせる場合が多い。はじめに、手で千切った豆腐[* 22]を焼き目がつくまで[* 23]炒めて、いったん皿に取り出したあとに、野菜や豚肉などを順番に炒めて、豆腐を戻して炒め合わせて塩や醤油などで味を調えて仕上げる[24][* 24]。
歴史
家庭料理のため発祥はわかっていないが、料理研究家の新島正子は「婦人たちの知恵が、しらずしらずのうちに生み出した料理」として、短時間で出来上がる沖縄の誇るべき庶民料理と評している[25]。チャンプルーは、手早く簡単に調理できるだけではなく、島豆腐の植物性タンパク質と野菜の食物繊維を合わせ、豚脂など油で炒めることで脂溶性ビタミンがとれるので栄養的にも理にかなっていることが沖縄県外からも評価されてきた[26]。
琉球王国時代からチャンプルーは食べられていて[9]、太平洋戦争以前は豆腐と野菜のみを使って作られていた[27]。各家庭にあった油壺(アンダーガーミ)の豚脂を使い、鉄製の油鍋(アンダーナービ)[* 25]で食材を炒め合わせて作られ、来客時のおもてなしにもチャンプルーが出されることが多かった[28][* 26]。油鍋を使って強火で食材を炒めると「チャーラチャーラ」と音がよく響いたと伝わっている[* 27]。
家庭料理の代表格となったのは、沖縄での主食が甘藷(さつまいも)から米に変わった昭和30年頃とされている[29][* 28]。アメリカ施政権下を経て、ポークなどの新しい食材を取り入れてきたが、チャンプルーは伝統行事[* 29]で使われる料理ではないため、食材を追加しやすかったことが指摘されている[30][* 30]。家庭料理のチャンプルーは、飲食店などで食べる料理ではないという印象が強い時代もあったが、今では沖縄料理店・食堂でも人気メニューのひとつとなっている[* 31]。
語源
その語源については、さまざまな説がある。いずれの説も、チャンプルーという料理の成立過程が判明していないため証拠の提示には至っていない[* 32]。
たとえば、歴史学者の東恩納寛惇は、チャンプルーは中国語の「炒腐児」に由来するとしている[31]。これは「腐」が豆腐を意味し、豆腐を炒める料理を指すと解釈されている[32]。また、簡単な料理の意味である「喰飯」、肉や野菜などを即席で炒める「雑炊」を由来とする説がある[33]。さらに、中国語の「攙烹児」「攅烹児」に由来するとして、それぞれ「攙」は混ぜる、「攅」は集める、「烹」は煮る・炒めるの調理法を意味としている説がある[34][* 33]。
このほか、強火で手早く炒める際の沖縄方言の擬声語である「チャラミカスン[* 34]」を由来とする説[35]や長崎の郷土料理「ちゃんぽん」を沖縄方言読みしたものであるとする説[34]、インドネシア語・マレー語で「混合・混ぜる」という意味を持つ「campur」(チャンプル)を由来とする説などがある[36][* 35][* 36]。
チャンプルーの種類
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/7/73/2015-12-16_Goya_champru_in_Ishigakijima_%E3%82%B4%E3%83%BC%E3%83%A4%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%97%E3%83%AB%E3%83%BC%EF%BC%88%E7%9F%B3%E5%9E%A3%E5%B3%B6%EF%BC%89DSCF2191.jpg/220px-2015-12-16_Goya_champru_in_Ishigakijima_%E3%82%B4%E3%83%BC%E3%83%A4%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%97%E3%83%AB%E3%83%BC%EF%BC%88%E7%9F%B3%E5%9E%A3%E5%B3%B6%EF%BC%89DSCF2191.jpg)
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/9/91/Tofu_Champuru_by_ayustety_in_Monzennakacho%2C_Tokyo.jpg/260px-Tofu_Champuru_by_ayustety_in_Monzennakacho%2C_Tokyo.jpg)
現在、家庭料理としては廃れてしまっているチャンプルーも多い[37]が、以下には料理番組や料理雑誌で紹介されることの多いチャンプルーを紹介する。
ゴーヤーチャンプルー[38]
タマナーチャンプルー[40]
マーミナーチャンプルー[42]
チキナーチャンプルー[46]
- チキナー(漬菜)とは塩漬けにしたシマナー(島菜=カラシナ)のことで、これを中心に用いたチャンプルーを指す。チキナーは水に漬けて塩を抜いてから炒め合わせる。
ラッチョウチャンプルー[47]
チリビラーチャンプルー[49]
ナーベーラーチャンプルー[52]
- ナーベーラーとはヘチマのことで、ヘチマ中心のチャンプルーのことを指す。
- 豆腐をいれずに油で炒めていくナーベーラータシヤー[53][54]もあるが、沖縄での定番は炒め料理ではなく、素材に含まれる水分を生かして味噌煮にする[55]ナーベーラーンブシー[56][57]である。このナーベーラーンブシーもチャンプルーと呼ばれたりすることもある。
- パパヤーとはパパイヤのことで、パパイヤ中心のチャンプルーのことを指す。完熟して甘みの出る前の青いパパイヤを千切りにして豆腐と炒める[* 39]。豆腐は入れずにイリチーにすることが多いが、パパイヤイリチーのこともチャンプルーと呼ばれることがある。
豆腐チャンプルー[* 40]
- 島豆腐を中心に野菜と油で炒めた料理[60]。国立国語研究所の沖縄語辞典にも取り上げられる[* 41]など沖縄では定番チャンプルーの一つ。詩人の山之口貘も「豆腐が主であれば、豆腐チャンプルーなのである」と記していて[* 42]、 食堂などでも豆腐の量が多いものを豆腐チャンプルーと呼んでいる[61][62]。
野菜チャンプルー[63]
このほかに、ウンチェーやチンクヮー、ビラガーやトーマーミーヌファーなどを主な季節の野菜としたチャンプルーが知られている[64][* 44]。また、調理法に関わらず、チャンプルーと呼ばれることが特に多くなっている炒め物としては主に次の2つがあげられる。
フーチャンプルー[65]
- フーとは麩のことで、車麩を水で戻したあと水気を切って卵液に浸したものを野菜などと炒める。豆腐と炒め合わせないことが多く、その場合は調理法によってフーイリチー・フータシヤー[66][67]と呼ばれてきたが、チャンプルーと呼ばれることも多い。
ソーミンチャンプルー[* 45]
脚注
注釈
出典
参考文献
- 宮良当壮『八重山語彙』東洋文庫、1930年
- 柳田国男『海南小記』創元社、1940年
- 主婦の友社『冬の家庭料理(料理文庫)』主婦の友社、1955年
- 火野葦平『赤道祭(角川文庫)』角川書店、1957年
- 宮城栄昌『移りゆく沖縄のすがた』文民書房、1960年
- 石野瑛『琉球大観』武相学園、1960年
- 平凡社編『国民百科事典 第7』平凡社、1962年
- 黒田嘉一郎『沖縄紀行』真珠書院、1964年
- 新島正子「郷土の味(25)沖縄の豆腐とチャンプルー」『沖縄タイムス』1965年7月12日、夕刊
- 翁長君代『琉球料理と沖縄の食生活』績文堂、1969年
- 新島正子『琉球料理』新島料理学院、1971年
- 源武雄『琉球歴史夜話:琉球歴史の裏面を解明する』沖縄文教出版、1971
- 主婦と生活社編『主婦と生活26(10)』主婦と生活社、1971年08月
- 翁長君代「琉球料理(沖縄の味)」『調理科学』5巻3号、調理科学研究会、1972年、158-162頁
- 西銘康展編『沖縄資料集成』green-life、1975年
- 尚道子『やりくり家庭料理(NHKきょうの料理)』日本放送出版協会、1976年
- 遠藤元男・児玉幸多・宮本常一編『日本の名産事典』東洋経済新報社、1977年
- 渡口初美『沖縄の食養生料理』国際料理学院、1979年
- 外間ゆき・新垣博子、尚弘子・宮城節子・桂正子・金城須美子・東盛キヨ子「明治後期から大正初期にかけての沖縄における日常食の食品使用上の諸特徴」『家政学雑誌』第31巻第3号、1980年
- 琉球新報社編『東恩納寛惇全集8』第一書房、1980年
- 中本正智『図説琉球語辞典』金鶏社、1981年
- 大城精徳・高良倉吉・比嘉政夫・又吉清吉・宮城篤正「座談会 食文化の交流」『新沖縄文学』54号、沖縄タイムス、1982年、14-27頁
- 沖縄大百科事典刊行事務局『沖縄大百科事典 中巻』沖縄タイムス社、1983年
- 古波蔵保好『料理沖縄物語』作品社、1983年
- 渡口初美『実用琉球料理第9版』月刊沖縄社、1983年
- 朝日新聞編『郷土料理とおいしい旅20 (沖縄)』朝日新聞社、1984年
- 石毛直道・奥村彪生・神崎宣武・山下論一『日本の郷土料理12 九州Ⅱ・沖縄』ぎょうせい、1987年
- 日本の食生活全集沖縄編集委員会編『日本の食生活全集47 聞き書沖縄の食事』農山漁村文化協会、1988年4月
- 喜屋武マサ『沖縄豆腐料理80選』那覇出版社、1992年
- 金城須美子「沖縄の食と特色と背景」『食べもの文化』187号,1993年、p39-43
- 沖縄県観光文化局文化振興課編『琉球料理』沖縄県、1995年11月
- 森田満夫「沖縄在一年」『月刊部落問題(233)』兵庫人権問題研究所、1996年、p2-3
- 安田ゆう子『沖縄 琉球料理』那覇出版社、1999年
- 半田一郎編著『琉球語辞典』大学書林、1999年11月
- 渡慶次富子・吉本ナナ子『沖縄家庭料理入門 おいしさの秘密はティーアンラ』農山漁村文化協会、2000年
- 沖縄の食を考える会『長寿県 沖縄の家庭料理』那覇出版社、2001年
- 国立国語研究所編『沖縄語辞典 (国立国語研究所資料集;5)』財務省印刷局、2001年
- 仲村清司・腹ぺこチャンプラーズ『沖縄大衆食堂』双葉社、2001年
- 尚弘子監修『沖縄ぬちぐすい事典』プロジェクトシュリ、2002年
- 琉球新報社編『【最新版】沖縄コンパクト辞典』琉球新報社、2003年3月
- 内間直仁・野原三義編著『沖縄語辞典』研究社、2006年
- 農文協編『伝承写真館 日本の食文化12 九州2・沖縄』農村漁村文化協会、2006年
- 友利友子・沖縄の食を考える会『チャンプル-とウチナーごはん』沖縄タイムス社、2007年
- 尚弘子『暮らしの中の栄養学 : 沖縄型食生活と長寿』ボーダーインク、2008年
- 渡邊欣雄・岡野宣勝・佐藤壮広・塩月亮子・宮下克也『沖縄民俗辞典』吉川弘文館、2008年7月
- 緒方修『燦々オキナワ』現代書館、2008年
- 与那原恵『わたぶんぶん わたしの「沖縄料理」』西田書店、2010年
- 外間守善『沖縄の食文化』新星出版、2010年
- 沖縄友の会・琉球料理グループ『私たちが伝えたい 琉球料理―おいしく作ってわが家の食卓にー』沖縄友の会・琉球料理グループ、2011年
- 沖縄県文化観光スポーツ部文化振興課「しまくとぅばハンドブック」沖縄県、2014年
- 沖縄県次世代の健康教育検討委員会編「次世代の健康づくり副読本 教員用テキスト くわっち~さびら」沖縄県・沖縄県医師会、2015年
- 稲福みき子「ゴーヤチャンプルーは沖縄料理か?」福田アジオ監修『知って役立つ民俗学 現代社会への40の扉』ミネルヴァ書房、2015年
- 嘉数 啓「島嶼学ことはじめ(六)―島嶼における文化と観光,バリ島と竹富島のケースを中心に―」『島嶼研究』第18巻第2号、日本島嶼学会、2017年、155-183頁、doi:10.5995/jis.18.2.155。
- 松本嘉代子『松本嘉代子のイチから琉球料理』タイムス住宅新聞社、2018年
- 沖縄県文化観光スポーツ部文化振興課「平成29年度 沖縄食文化実態調査 」沖縄県、2018年
- 沖縄県文化観光スポーツ部文化振興課「琉球料理 受け継がれる伝統料理を味わう」沖縄県、2019年
- 宮良信詳『うちなーぐち活用辞典』国立国語研究所、2021年
- 椎名誠『そらと うみと ぐうちゃんと』光村図書出版、2021年