ゆとり世代

ゆとり教育を受けた世代のこと

ゆとり世代(ゆとりせだい)とは、「ゆとり教育」を受けた世代のこと。

日本の人口ピラミッド(世代を注記)

ゆとり世代については明確な定義、範囲はなく諸説ある。

背景

詰め込み教育による落ちこぼれと剥落学力問題の反省から、大幅な学習量の精選と思い切った授業時間の削減が行われ[13]、1980年度に「ゆとりと充実」を掲げて教育方針を掲げた学習指導要領、1992年度に「新学力観」を掲げた学習指導要領、そして2002年度に「生きる力」を掲げた学習指導要領が施行された。1980年から全面実施された学習指導要領の改訂では大幅な学習量の精選と思い切った授業時間の削減が行われた[13]

1980年度学習指導要領以降、学力低下を危惧する声が出始め[14]後にゆとり世代と呼ばれ始めた[15]『日本の教育がよく分かる本』(PHP文庫出版)では、「詰め込み教育」世代と「ゆとり教育」世代に分けた時、1980年の学習指導要領改訂を論拠として、ゆとり教育世代には、当時(2014年1月)30代 - 40代も含まれると指摘している。更に、1980年から学校教育を受けた世代こそ「ゆとり世代」の草分けともされている[16]。また、ゆとり世代は1966年4月2日 - 2004年4月1日生まれとする意見と1987年 - 2004年生まれとする意見がある[17][18]

学習量削減から20年が経過した(その間も削減傾向は継続された)2002年度に施行された学習指導要領をはじめに受けたことになる1985年度生まれの世代をメディア等で「ゆとり第一世代」と呼称するようになった[19][20]

狭義のゆとり教育(2002年実施の学習指導要領)を受けたことのある世代は、1987年4月2日から2004年4月1日生まれである[21]

ただし、文部科学省はゆとり教育との言葉を用いてはおらず、マスコミによる造語である。

しかし学力低下の不安から、小学校は2011年度、中学校では2012年度、高等学校では2013年度から学年進行で学習指導要領の再改定が実施された[22]。この改定後の教育はマスコミから脱ゆとり教育と呼ばれている[23]

なお、年代区分には諸説があるが以降は、特に記載がない場合、1987年生まれ以降に関する内容である。

成長過程と経済情勢

1986年にバブル景気が起きたが1992年に崩壊し、アジア通貨危機に伴うゼロ金利政策(1999年)や戦後初のデフレ宣言(2001年)[24]が出された。2002年2月から2009年3月にかけていざなみ景気が起きたものの、リーマンショックに伴う不況が発生し、ゆとり世代の価値観に影響を与えた。

このようなバブル経済崩壊のあとに長らく続く経済停滞の風潮を受け、戦後の経済成長期の世代と比較すると堅実で安定した生活を求める傾向があり、流行に左右されず、無駄がなく自分にここちいいもの、プライドよりも実質性のあるものを選ぶという消費スタイルをもっている[25]。また、結果を悟り高望みをしないため、この世代は「さとり世代」とも呼ばれている。

就職活動

ゆとり世代の就職状況の変化

2006年から2008年にかけて、一時的な景気の回復により、2006年から2009年に卒業して就職した者(ゆとり第一世代の高校・短大・専門学校卒など)には売り手市場の恩恵を受けた者もいるが、サブプライムローン問題に端を発する世界金融危機などの要因による急激な景気悪化により、1987年度生まれ周辺の就職状況は厳しくなった。特に大卒(2010年卒)の就職率は、前年比で7.6%という大幅減少で60.8%(男56.4%、女66.6%)であった。読売新聞社の調査によれば、このような就職状況の悪化から、2010年大学卒業予定者だった約56万8000人のうち、約7万9000人(7人に1人)以上が就職留年を選択している[26][27][注 1]。また、2011年3月に東日本大震災もあり、マスコミによっては、(就職)超氷河期、超就職氷河期などと表現する人もいる[28]。また、その時期に就職活動を行ったゆとり第一世代を「リーマンショック世代」と呼ぶこともある。しかし、就職率は2010年卒以降増加しており2014年卒(大卒)は69.8%となり、2018年卒は77.1%にまで上昇した[29]。なお、非正規雇用の問題があるなか、2012年卒から就職率だけでなく正規雇用なのか非正規雇用なのかも調査するようになった。2012年卒の非正規雇用の就職率は3.9%、2018年卒は3.0%であり、減少傾向にある[29]。また、学生調査においても就職状況が厳しいと答える学生が過半数ではあるものの、楽だと答える学生が年々増加しており、2014年卒の学生は33.9%が楽と答えている(2010年卒は1.2%)[30]。また、人事担当者による調査によると、2011年卒や2012年卒までの就職状況では「氷河期」と答えている人が多かったが2015年卒の就職状況は、「氷河期」(11.8%)と答える人よりも「売り手」(19.4%)と答える人の方が多く[31]、逆に人手不足が問題となっている[32]。(下の表を参照)

就職率の変化

以下、留年、浪人等のない場合の学歴別就職率である[注 2]。1987年度生まれは、留年、浪人をしなければ、2003年に中学を卒業、2006年に高校を卒業、2008年に専門、短大を卒業、2010年に大学を卒業、2012年に修士を卒業、2015年に博士を卒業する。ここでの就職率は、卒業者のうち就職した者の割合であるため、進学率の高い高卒は就職率が低い[注 3]。また、男女比は学歴によって格差があり、高卒、修士卒、博士卒は男性の方が就職率が高いのに対して、専門卒、短大卒、大卒は女性の方が就職率が高い。

 : 就職氷河期(2010年 - 2013年卒)

就職率(%)の推移[33]
誕生年度高校卒専門卒短大卒大学卒修士卒博士卒
198718.054.272.060.873.367.2
198818.553.669.961.673.767.4
198919.051.565.463.974.467.7
199018.254.368.267.376.267.7
199115.857.670.869.877.269.0
199216.358.073.572.678.2-
199316.857.675.274.778.5-
199417.058.378.176.178.6-
199517.557.979.277.1--
【参考】2014年卒の男女別就職率(%)[33]
高校卒専門卒短大卒大学卒修士卒博士卒
17.557.675.269.874.466.0
21.113.956.464.156.377.464.975.879.262.869.857.4
就職戦線状況(%)の推移[34][35][36][37][38]
生まれ年卒超氷河期氷河期どちらでもないまだ売り手市場かなり売り手市場
1988201112.551.829.65.20.8
1989201211.751.830.94.70.8
1990201311.039.341.36.81.8
199120147.137.846.66.61.9
199220151.911.861.919.45.0

企業の変化

ゆとり世代が就職するころ、企業によっては会社の形が少し変化するところもあった。会社によっては英語を公用語にしたり[39]、外国人の採用を増やしたり[40]、3年以内既卒者を新卒と扱う動き[41]など企業や採用のスタイルが変わりつつあった。

就職活動も大きく流れが変わり、採用時期が大きく変化し(下の表参照)[42][43]、インターンシップも活発となった。

経団連の採用選考の指針[44][45][46]
2010年 - 2012年卒2013年 - 2015年卒2016年卒2017年卒 - 2025年卒2026年卒以降
広告活動大学の日程を尊重前年の12月以降3月以降3月以降規制なし[47]
選考活動早期開始の自粛4月以降8月以降6月以降
内定日10月以降10月以降10月以降10月以降
  • 2010年 - 2012年卒の大まかなスケジュールは、前年の10月以降にエントリー、2月ごろから採用試験という流れであった[48]
  • 実際には、選考活動が指針よりも早いところも多い[48]
  • 2016年卒の時経団連加盟企業の8割以上が悪影響があったと答えたため、2017年卒以降選考開始時期を2か月前倒しすることとなった[49]

デジタルネイティブ

1995年にPHSが登場し、1996年にポケットベルが隆盛を迎え、2000年前後になると携帯電話インターネットが普及し[50][51]メールをはじめSNSを利用したコミュニケーションツールが発展した。このような変化の中、学生時代からインターネットのある生活環境の中で育ってきた世代をデジタルネイティブ世代と呼び、橋元良明らは、パソコンでインターネットを活用した76世代、携帯電話で活用した86世代、クラウド環境での集合知を活用する96世代(ネオ・デジタルネイティブ)に分類している[52]

少子社会

日本の出生数(棒グラフ)と合計特殊出生率(折れ線グラフ)。1947年(昭和22年)以降。近年、合計特殊出生率は増加しているにもかかわらず、出生数の減少は続いている。

丙午による出生率減によって合計特殊出生率が1.58であった1966年よりも低い1.57を1989年に記録したことが1990年に発表され、「1.57ショック」と呼ばれて注目を集めた。また、平成16年版少子化社会白書は、子どもの数が高齢者人口(65歳以上人口)よりも少なくなった社会を「少子社会」と定義し、1997年に少子社会へ突入したと記載している[53]

ゆとり世代が子どもを持つ年齢になった2010年代では、少子化問題がより顕著となった。2011年には第一子出産時の母親の年齢平均が30歳を突破し、2018年現在では30.7歳となった[54]。合計特殊出生率は、2005年の1.26を記録以来微増し、2017年時点は1.43となったが[55]、出産適齢期の女性が減っているため、出生数は減少し[56]、2016年には年間の出産数が100万人を割った(2022年時点では77万759人)[55]

2017年時点での母親の年齢階級別の出生数では、30~34歳が最も多く34万5419人であるが、25~29歳(2017年時点でのゆとり世代の年齢に相当)が24万933人、35~39歳が21万6938人と、30~34歳以外での出生数も多く、20~24歳も7万9264人、40~44歳も5万2101人と少なからずいる[57]。そのため、7割がママ友・パパ友との年の差ギャップを感じているというアンケート結果もある[58]。ただ、ゆとり世代が新生児の親の多数派を占めるようになるのは令和改元後の2019年5月1日以降のことである。

教育の変化

1992年9月12日に毎月第2土曜日が、1995年4月22日からは第4土曜日も休業日となり、2002年度から学校完全週5日制に変更された。ただし、2010年代になると学校や自治体の権限によって、土曜日の授業が復活したところもある。

2006年から大学入試の基準が変更となった。センター試験では、リスニングが追加された。また、薬学部薬学科が6年制教育となった。

学力低下の不安の煽りを受け、学習塾への通塾者が増えたり、私立の中高一貫校中学受験した者が増えたほか(2008年には私立中学受験率は首都圏で14.8%と過去最高を記録した[59])、2007年には、全国学力・学習状況調査が導入され、地域によっては学力改善のための教育を学校や自治体独自で取り組むといったもことも行われた。

通知表等は相対評価ではなく絶対評価であり、「生きる力」を重視する教育方針を継続している。

授業時数の変化

以下にゆとり教育前の教育、ゆとり教育、脱ゆとり教育の移行措置教育、脱ゆとり教育のそれぞれの学年での授業時数を示す。

資料
表の見方
黄色
示している教育ゆとり教育前の教育ゆとり教育移行措置脱ゆとり教育
年代別の授業時間(義務教育)
年度生まれ小1小2小3小4小5小6中1中2中3総授業時間数
19868509109801015101510151050105010508935
1987850910980101510151015105010509808865
198885091098010151015101510509809808795
19898509109801015101510159809809808725
1990850910980101510159459809809808655
199185091098010159459459809809808585
19928509109809459459459809809808515
19938509109109459459459809809808445
19948508409109459459459809809808375
19957828409109459459459809809808307
19967828409109459459459809809808307
199778284091094594598098098010158377
1998782840910945980980980101510158447
19997828409109809809801015101510158517
20007828409459809809801015101510158552
20017828759459809809801015101510158587
20028168759459809809801015101510158621
20038169109459809809801015101510158656
20048509109459809809801015101510158690

※私立学校ではこの限りではない。また、公立学校においても必ずしも上記の状態であったわけではない。

PISAの順位変動

ゆとり世代のPISA(OECD生徒の学習到達度調査)の結果は以下の通りである。順位の下落が問題となったが、参加国数の増加、各国の教育水準の向上などにより前の世代との単純比較はできない。PISA2003及びPISA2012では、問題解決能力も実施され、PISA2018ではグローバル・コンピテンスが新たに導入された。PISA2000からPISA2012までは筆記型調査であったが、PISA2015以降はコンピュータ使用型調査に移行した[60]。一部の国地域において筆記型調査に加えて、PISA2009ではコンピュータを使用した読解力調査(デジタル読解力)[61]、PISA2012ではデジタル読解力、デジタル数学的リテラシーが実施された[62]

PISAの順位の変遷
PISA受験対象生まれ読解力数学的

リテラシー

科学的

リテラシー

問題解決能力グローバル・

コンピテンス

PISA2000[63]1984年度生まれ8位1位2位--
PISA2003[64]1987年度生まれ14位6位2位4位-
PISA2006[65]1990年度生まれ15位10位6位--

また、点数に関しても、全数調査ではなく標本調査であること、順位間で有意差がないところもあることに留意が必要であり[66][67]、考慮した最低順位の結果は以下の通りである。

PISAの順位の変遷
PISA受験対象生まれ読解力数学的

リテラシー

科学的

リテラシー

問題解決能力グローバル・

コンピテンス

PISA2009[68]1993年度生まれ9位*112位6位--
PISA2012[69]1996年度生まれ4位*17位*14位3位-
PISA2015[60]1999年度生まれ9位6位3位--
PISA2018[66]2002年度生まれ20位8位5位-不参加*2

*1:PISA2009のデジタル読解力は4位[70]、PISA2012でのデジタル読解力は4位[71]、PISA2012でのデジタル数学的リテラシーは6位であった[71]

*2:PISA2018のグローバル・コンピテンスは、文化的多様性に対する価値観を1つの指標で順位付けされる事を懸念し参加を見送った。次回については、参加を検討している[72]

教科ごとの順位の推移

 : PISA2003以降参加国・地域[注 4]
 : PISA2006以降参加国・地域
 : PISA2009以降参加国・地域

PISA(読解力)の順位の変遷
順位PISA2000PISA2003PISA2006PISA2009PISA2012PISA2015PISA2018
1フィンランドフィンランド韓国上海上海シンガポール上海
2カナダ韓国フィンランド韓国香港香港シンガポール
3ニュージーランドカナダ香港フィンランドシンガポールカナダマカオ
4オーストラリアオーストラリア
リヒテンシュタイン
カナダ香港日本フィンランド香港
5アイルランドニュージーランドシンガポール韓国アイルランドエストニア
6韓国ニュージーランドアイルランドカナダフィンランドエストニアカナダ
7イギリスアイルランドオーストラリアニュージーランドアイルランド韓国フィンランド
8日本スウェーデンリヒテンシュタイン日本台湾日本アイルランド
9スウェーデンオランダポーランドオーストリアカナダノルウェー韓国
10オーストリア香港スウェーデンオランダポーランドニュージーランドポーランド
11ベルギーオランダスウェーデン
12ノルウェーベルギーニュージーランド
13スイスエストニアアメリカ
14日本スイスイギリス
15マカオ日本オーストラリア
16台湾
17デンマーク
18ノルウェー
19ドイツ
20日本
PISA(数学的リテラシー)の順位の変遷
順位PISA2000PISA2003PISA2006PISA2009PISA2012PISA2015PISA2018
1日本香港台湾上海上海シンガポール上海
2韓国フィンランドフィンランドシンガポールシンガポール香港シンガポール
3ニュージーランド韓国香港
韓国
香港香港マカオマカオ
4フィンランドオランダ韓国台湾台湾香港
5オーストラリア
カナダ
リヒテンシュタインオランダ台湾韓国日本台湾
6日本スイスフィンランドマカオ北京・上海・江蘇・広東韓国
7スイスカナダカナダリヒテンシュタイン日本韓国エストニア
8イギリスベルギーマカオ
リヒテンシュタイン
スイスリヒテンシュタインスイス日本
9ベルギーマカオ
スイス
日本スイスエストニアオランダ
10フランス日本カナダオランダカナダポーランド
PISA(科学的リテラシー)の順位の変遷
順位PISA2000PISA2003PISA2006PISA2009PISA2012PISA2015PISA2018
1韓国フィンランド
日本
フィンランド上海上海シンガポール上海
2日本香港フィンランド香港日本シンガポール
3フィンランド香港カナダ香港シンガポールエストニアマカオ
4イギリス韓国台湾シンガポール日本台湾エストニア
5カナダリヒテンシュタイン
オーストリア
エストニア
日本
日本韓国フィンランド日本
6ニュージーランド
オーストリア
韓国フィンランドマカオフィンランド
7マカオニュージーランドニュージーランドアイルランドカナダ韓国
8オーストリアオランダオーストリアカナダ台湾香港カナダ
9アイルランドチェコオランダエストニアカナダ北京・上海・江蘇・広東香港
10スウェーデンニュージーランドリヒテンシュタインオーストリアポーランド韓国台湾

?資料:OECD生徒の学習到達度調査(PISA)

脚注

注釈

出典

参考文献

関連項目