まや型護衛艦

海上自衛隊の護衛艦の艦級

まや型護衛艦(まやがたごえいかん、英語: Maya-class destroyer)は、海上自衛隊ミサイル護衛艦(DDG)の艦級[注 4]あたご型をもとに電気推進を導入し、またイージスシステムも更新した発展型として、26中期防に基づき、平成2728年度計画で各1隻(まやはぐろ)が建造された[5][11][12][13]

まや型護衛艦
「まや(DDG-179)」。写真は塗装をロービジ塗装に変更する前のもので、変更後と比べて煙突頂部や艦番号の塗装に差異がある。
「まや(DDG-179)」。写真は塗装をロービジ塗装に変更する前のもので、変更後と比べて煙突頂部や艦番号の塗装に差異がある。
基本情報
艦種ミサイル護衛艦(DDG)
命名基準日本の山岳名
建造所ジャパン マリンユナイテッド 横浜事業所 磯子工場
運用者 海上自衛隊
建造期間2017年 - 2021年
就役期間2020年 - 就役中
建造数2隻
前級あたご型
次級12,000t型[注 1]
要目
基準排水量8,200トン
満載排水量10,250トン
全長170 m[2]
最大幅21.0 m[2]
深さ12.0 m[2]
吃水6.2 m[2]
機関方式COGLAG方式
主機
推進器可変ピッチ・プロペラ×2軸
出力69,000馬力[2]
電源
速力約30ノット (56 km/h)
乗員約300人[2]
兵装
搭載機SH-60K哨戒ヘリコプター×1機[注 2]
C4ISTAR
FCS
  • Mk.99 mod8 SAM用×3基
  • Mk.160 主砲用×1基
  • レーダー
  • AN/SPY-1D(V) 多機能型
  • AN/SPQ-9B 対水上用×1基
  • ソナー
  • AN/SQS-53C 艦首装備式
  • MFTA 曳航式[6]
  • 電子戦
    対抗手段
  • NOLQ-2C電波探知装置
  • Mk.137 6連装デコイ発射機×4基
  • テンプレートを表示

    来歴

    海上自衛隊は、第1次防衛力整備計画期間中の「あまつかぜ」(35DDG)によって、ターター・システムを搭載したミサイル護衛艦(DDG)の整備に着手した。その後、第3次防衛力整備計画より建造を開始したたちかぜ型(46DDG)3隻でシステムのデジタル化と海軍戦術情報システム(NTDS)に準じた戦術情報処理装置の導入、そして五三中業より建造を開始したはたかぜ型(56DDG)2隻ではCIC能力の強化とともにプラットフォームのガスタービン化も達成するなど、順次に性能強化を図っており、とくにはたかぜ型については在来型ミサイル護衛艦の頂点に立つものと評されていた[14]

    またこれと並行して、1981年ごろからは新世代の防空武器システムであるイージスシステム(AWS)の導入が模索されており、これを搭載するイージス艦として、まず6103中期防こんごう型(63DDG)4隻が建造された。また13中期防では、たちかぜ型の代艦として、搭載システムの更新や航空運用能力の強化を図ったあたご型(14DDG)2隻が建造された[12]

    そして26中期防では、はたかぜ型(56/58DDG)の代艦としてイージス艦2隻の建造が認可され、イージス艦8隻体制(4個護衛隊群に2隻ずつ)が整うことになった[12]。これによって建造されたのが本型である[5][13]

    設計

    船体

    本型は、あたご型(14DDG)の設計を基本として、電気推進の導入を図っている[5]。これに伴い、全長にして5メートル、基準排水量にして450トン大型化した[5]。ただし最大幅21メートル、深さ12メートル、吃水6.2メートルというその他の主要目は変更せず、凌波性や艦尾フラップの導入等造波抵抗を大きく変化させないような船体設計とすることで、あたご型と同様の運動性能を確保しているとみられている[13]

    機関

    機関の構成としてはCOGLAG方式を採用した。これは先行するあさひ型(25DD)と同様の方式だが、同型では電圧450ボルトの低電圧であったのに対し、本型では電圧6.6キロボルトという高電圧とされており、技術的にはより進んだものとなった[5]発電機としてはM7A-05ガスタービン主発電機[4]とディーゼル主発電機を2基ずつ搭載し、電力は15.6メガワット[3]電動機2基を駆動する[15]。また直接機械駆動の際に使用する主機は、LM2500IECガスタービンエンジン2基とされている[13]

    なお、従来のこんごう型・あたご型ではガスタービンエンジン4基によるCOGAG方式で、最高速力30ノット以上を確保した[3]。これに対し本型の最高速力は「約30ノット」とされており、30ノットを下回る可能性が指摘されている[3]。これは最大速力を使用する頻度およびその目的達成度具合いと、通常使用される速力域での運用の重要性のトレードオフによる検討や、艦隊の運用形態の変化に伴う最大速力への依存度の低下などを反映したものと考えられている[3]。また電気推進によって発揮できる最大速力はおよそ18ノット程度と推定されているが、これは艦隊運用で必要とされる速力21ノットにわずかに満たない数字である[15]

    装備

    イージス武器システム(AWS)

    本型は、イージス武器システム(AWS)としてはベースラインJ7(ベースライン9.C2)、イージスBMDシステムとしてはBMD5.1を装備し、これらを統合している[16]。AWSベースライン9Cは、対空戦(AAW)機能とミサイル防衛(BMD)機能を両立した、IAMD(integrated air and missile defense)機能、およびNIFC-CA FTSを備えている。本型では、NIFC-CA FTSのためのSM-6 艦対空ミサイルは後日装備とされているが、共同交戦能力(CEC)には対応しており、海上自衛隊で初の搭載例となる[5]

    レーダー

    AWSの中核となる多機能レーダーはAN/SPY-1D(V)である[16]。一方、対水上捜索用のレーダーとしては、こんごう型・あたご型に搭載されているOPS-28Eとは違い、建造時からAN/SPQ-9Bが搭載されることとされたが、「はぐろ」では就役時点では搭載されず後日装備となっていた[15]が、2022年3月に終了した年次検査の際に搭載されている。

    ミサイル防衛能力

    先述の通り、本型のイージスBMDシステムはBMD5.1である。ベースライン9Cと統合されるイージスBMD5.0システムでは、SM-3ブロックIIAの発射には対応していない。だが、本型のイージスBMDシステムは、すべてのSM-3の発射に対応できるように能力の向上が図られている[5][注 5]

    対潜戦

    対潜戦システム(ASWCS)は改装後のあたご型と同じくAN/SQQ-89A(V)15Jを搭載し[19]AN/SQS-53C艦首装備ソナーとAN/SQR-20 MFTA(Multi-Function Towed Array曳航ソナーを組み合わせている[6][13]。なお本型では、AN/SQS-53Cソナーのバウ・ドームに収容される送受波器TR-343は日本電気により国産化されたTR-343Jが搭載されている[20]。これは対外有償軍事援助(FMS)が増加する中、国内防衛産業の技術基盤を維持するため、アメリカ海軍に仕様を確認の上で製作し、同海軍の評価・検証を経て納入に至ったものである[19][21]

    324mm3連装短魚雷発射管については、こんごう型・あたご型ではHOS-302であったのに対し、本型ではHOS-303に更新されて、Mk.46に加えて97式魚雷および12式魚雷の発射に対応した[6]。これは平時はRCSスクリーンで覆われており、必要に応じてスクリーンを開けて所定の方向に指向される[6]。スクリーンを開けるために手動では3分程度かかるが、高圧空気を使用した機力では30秒程度で開放できる[6]

    なお、あたご型では対魚雷用のデコイとして曳航具4型を備えていたが、本型では確認されていない[6]

    対水上戦

    対艦兵器としては、「まや」ではあたご型と同じく90式艦対艦誘導弾(SSM-1B)を搭載する[13]。ただし「はぐろ」では新開発の17式艦対艦誘導弾(SSM-2)が搭載される予定である[13]

    砲熕兵器

    砲熕兵器はあたご型とおおむね同構成で、艦砲としては62口径5インチ砲(127mm単装砲)[22]を艦首甲板に、また近接防空火器(CIWS)としては高性能20mm機関砲を上部構造物正面と後部上部構造物上に搭載する[6]

    電子戦

    電子戦装置としてはNOLQ-2Cを搭載している。これはこんごう型やあたご型で搭載されていた同系列機と異なり、ECM機能が削除されている[5]

    あたご型や「まや」では、艦載ヘリコプターの運用に対応するためマスト最上部に戦術航法装置(TACAN)のアンテナを設置していたが、もがみ型(30FFM)の開発過程で、マスト最上部に装備する必要のない新型TACANアンテナ(ORN-6F)が開発されたことから、「はぐろ」ではこれを導入し、マスト最上部にはNOLQ-2CのESMアンテナを設置した[16]。これによって「まや」よりもESMアンテナの設置位置が約5.5メートル高くなり、より早期に脅威電波を探知できるようになった[16]

    比較表

    新旧ミサイル護衛艦の比較

    DDG各型の比較
    まや型あたご型こんごう型はたかぜ型たちかぜ型あまつかぜ
    (最終状態)
    船体基準排水量8,200 t7,750 t7,250 t4,600 t[注 6]3,850 t[注 7]3,050 t
    満載排水量10,250 t10,000 t9,485 t5,900 t[注 6]5,200 t4,000 t
    全長170 m165 m161 m150 m143 m131 m
    全幅21.0 m16.8 m14.3 m13.4 m
    主機機関ガスタービン蒸気タービン
    方式COGLAGCOGAGギアード・タービン
    出力69,000 ps100,000 ps70,000 ps60,000 ps
    速力30 kt32 kt33 kt
    兵装砲熕62口径5インチ単装砲×1基54口径127ミリ単装砲×1基54口径5インチ単装砲×2基50口径76mm連装砲×2基
    高性能20mm機関砲×2基
    ヘッジホッグ対潜迫撃砲×2基
    ミサイルMk.41 VLS×96セル
    (SM-2, SM-3, 07式)
    Mk.41 VLS×96セル
    (SM-2, SM-3, VLA)
    Mk.41 VLS×90セル
    (SM-2, SM-3, VLA)
    Mk.13 単装発射機×1基
    (SM-1MR,ハープーン[注 8])
    74式8連装発射機×1基
    (アスロック)
    SSM[注 9]4連装発射筒×2基90式 4連装発射筒×2基ハープーン 4連装発射筒×2基
    水雷3連装短魚雷発射管×2基
    艦載機SH-60K×1機[注 2]SH-60J/K×1機[注 2]ヘリコプター甲板のみ
    同型艦数2隻2隻4隻2隻(練習艦)3隻(退役)1隻(退役)

    世界のイージス艦との比較

    イージス艦の比較
    まや型 ホバート級 世宗大王級
    バッチ1
    タイコンデロガ級
    AMOD改修艦
    アーレイ・バーク級
    フライトIIA
    船体満載排水量10,250 t7,000 t10,290 t9,763 t - 10,010 t9,648 t
    全長170 m146.7 m165 m172.46 m155.3 m
    全幅21.0 m18.6 m21.4 m16.76 m20.1 m
    主機方式COGLAGCODOGCOGAG
    出力69,000 ps47,000 hp105,000 hp86,000 hp100,000 hp
    速力30 kt28 kt以上30 kt以上
    兵装砲熕62口径5インチ単装砲×1基62口径5インチ単装砲×2基62口径5インチ単装砲×1基[注 10]
    20mmCIWS×2基20mmCIWS×1基30mmCIWS×1基20mmCIWS×2基20mmCIWS×2基[注 11]
    87口径25mm単装機関砲×2基
    12.7mm単装機銃×4基
    ミサイルMk.41 VLS×96セル
    (SM-2, SM-3, 07式)
    Mk.41 VLS×48セル
    (SM-2, SM-6, ESSM)
    Mk.41 VLS×80セル
    (SM-2)
    Mk.41 VLS×122セル
    (SM-2, VLA, TLAM)
    Mk.41 VLS×96セル
    (SM-2, ESSM, VLA, TLAM)
    K-VLS×48セル
    (天竜, 紅鮫)
    RAM 21連装発射機×1基
    SSM[注 9] 4連装発射筒×2基ハープーン 4連装発射筒×2基海星 4連装発射筒×4基ハープーン 4連装発射筒×2基[注 12]
    水雷324mm3連装短魚雷発射管×2基
    艦載機SH-60K×1機[注 2]MH-60R×1機スーパーリンクスMk.99×2機MH-60R×2機
    同型艦数2隻3隻3隻11隻(1隻退役)47隻予定

    同型艦

    一覧表

    艦番号艦名建造起工進水就役所属
    DDG-179まや[23]ジャパン マリンユナイテッド
    横浜事業所 磯子工場
    2017年
    (平成29年)
    4月17日
    2018年
    (平成30年)
    7月30日[24]
    2020年
    (令和2年)
    3月19日
    第1護衛隊群第1護衛隊
    横須賀基地
    DDG-180はぐろ[25]2018年
    (平成30年)
    4月24日
    2019年
    (令和元年)
    7月17日[26]
    2021年
    (令和3年)
    3月19日[11]
    第4護衛隊群第8護衛隊
    (佐世保基地)

    運用史

    平成27年度計画において、ネームシップの建造費と2隻分のイージスシステムの一部の調達費として1,680億円が盛り込まれた[27]。また平成28年度予算には、2番艦の建造費として1,734億円が盛り込まれた[28]。1番艦となる「まや」は、2020年3月19日に引渡式・自衛艦旗授与式が挙行され、就役。第1護衛隊群第1護衛隊に編入され、横須賀に配備された[29][30]。2番艦となる「はぐろ」は、2021年3月19日に引渡式・自衛艦旗授与式が挙行され、就役。第4護衛隊群第8護衛隊に編入され、佐世保に配備された[11]

    海上自衛隊では7、8隻目となるイージス艦であり、本艦の就役により、安倍内閣が2013年12月に閣議決定した防衛大綱(25大綱)以来、目指していたイージス艦8隻体制が確立した[11]。また、まや型の就役に伴い、はたかぜ型は2隻全てが練習艦に種別変更されている。

    登場作品

    アニメ・漫画
    空母いぶき GREAT GAME
    「まや」が登場。航空機搭載型護衛艦いぶき」を旗艦とする第5護衛隊群に配属される。
    勇気爆発バーンブレイバーン
    ATF(Allied Task Force)所属艦として「まや」「はぐろ」が登場。

    脚注

    注釈

    出典

    参考文献

    • ジャパン マリンユナイテッド: “8,200トン型護衛艦の命名式並びに進水式について”. www.jmuc.co.jp (2018年). 2018年7月31日閲覧。
    • 石井, 幸祐「海自イージス艦のメカニズム (特集 「はぐろ」就役!イージス艦8隻体制完成)」『世界の艦船』第947号、海人社、2021年5月、78-87頁。 
    • 内嶋, 修「注目の新型艦艇 (特集・新時代の海上自衛隊)」『世界の艦船』第891号、海人社、2019年1月、128-137頁、NAID 40021731689 
    • 内嶋, 修「COGLAG推進システム (特集 新型イージス艦「まや」のすべて)」『世界の艦船』第931号、海人社、2020年9月、78-91頁、NAID 40022315210 
    • 北原, 辰巳「2017年におけるマリンエンジニアリング技術の進歩」『日本マリンエンジニアリング学会誌』第53巻第4号、2018年、496-497頁、doi:10.5988/jime.53.466 
    • 香田, 洋二「国産護衛艦建造の歩み」『世界の艦船』第827号、海人社、2015年12月、NAID 40020655404 
    • 徳丸, 伸一「最新鋭DDG「まや」の防空システム」『世界の艦船』第889号、海人社、2018年12月、53-57頁、NAID 40021712920 
    • 徳丸, 伸一「対潜戦 (特集 自衛艦隊の海洋戦力)」『世界の艦船』第889号、海人社、2019年10月、78-83頁、NAID 40021998856 
    • 徳丸, 伸一「船体とウェポン・システム (特集 新型イージス艦「まや」のすべて)」『世界の艦船』第931号、海人社、2020年9月、78-91頁、NAID 40022315207 
    • 徳丸, 伸一「ウェポン・システム (特集 海自イージス艦のメカニズム)」『世界の艦船』第947号、海人社、2021年5月、88-97頁。 
    • 山崎, 眞「ミサイル護衛艦建造の歩み (特集 ミサイル護衛艦50年史)」『世界の艦船』第802号、海人社、2014年8月、69-75頁、NAID 40020135975 

    関連項目