![]() | この項目では、プラトンの著作について説明しています。その他の用法については「ティマイオス (曖昧さ回避)」をご覧ください。 |
プラトンの著作 (プラトン全集) |
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『ティマイオス』(希: Τίμαιος、羅: Timaeus)は、古代ギリシアの哲学者プラトンの後期対話篇の1つであり、また、そこに登場する人物の名称。副題は「自然[1]について」。
アトランティス伝説、デミウルゴスの宇宙創造、宇宙霊魂、リゾーマタ(古典的元素)、医学などについて記されている。自然を論じた書としてはプラトン唯一のもので、神話的な説話を多く含む。後世へ大きな影響を与えた書である。プラトンは、『ティマイオス』と未完の『クリティアス』、未筆の『ヘルモクラテス』を三部作として構想していたと考えられる。
パルメニデス・エレア派、ピュタゴラス学派、エンペドクレスといったイタリア半島系の哲学思想と、プラトン自身のイデア論や、医学的知見、魂論(魂の不死、魂の三分説、輪廻転生)などを織り交ぜつつ統合・合理化し、宇宙・神々・人間の自然本性の仕組みをプラトンなりに解説しようとした作品のため、複雑かつ曖昧さを多く含む内容となっている[2]。例えば、本書をラテン語に翻訳したキケロは「あの奇怪な対話篇はまったく理解できなかった」と述べている。
年代不詳、ある年のパナテナイア祭が行われている夏のアテナイの、ソクラテスの家にて[5]。
アテナイを訪れ、クリティアスの家に滞在しているティマイオス、ヘルモクラテスと、クリティアスの3名が、前日に続いて再度ソクラテスの家を訪れるところから話は始まる。
ソクラテスは前日話してくれるよう頼んだ話に言及する。前日にソクラテスが話した理想国家論についておさらいした後、それを受けて3名に、より詳細で完成度が高い理想国家論を話してくれるよう頼んだことを確認し、3名もその準備ができていると応じる。そしてまずはクリティアスが自分のアトランティス伝説の概要に軽く言及しつつも、彼らの打ち合わせ通り、順番を譲ってまずはティマイオスが宇宙論を始める。
『ティマイオス』は、(先行する『ソピステース (ソフィスト)』『ポリティコス (政治家)』と、幻の続編『ピロソポス (哲学者)』の三部作に続く)「新しい三部作」の最初の作品であり、その冒頭のやり取りにおいて、これから登場人物の3者がそれぞれソクラテスへと話をする形で『ティマイオス』『クリティアス』『ヘルモクラテス』の三部作が続くことと、また本編『ティマイオス』と続編『クリティアス』がどういう内容になるかの予告など、今後の構成を冒頭で必要最低限の記述で詰め込んで明示した、プラトン作品としてはやや性急・窮屈で説明的な構成の作品となっている。
また、続編である『クリティアス』の内容(アトランティス伝説)の概要を、本編『ティマイオス』冒頭で既に述べてしまっていることから、プラトン自身、この三部作も途中で中断する可能性が高いことをある程度予期していたと考えられる。
三部作の構成としては、前日にソクラテスから『ポリテイア (国家)』的な理想国家論を聞かされていた3者が、返礼として関連する話をソクラテスに話し返す構成となっている。まずイタリア半島出身で天文学に長けているとされるティマイオスが、
といったイタリア半島系の哲学思想と、プラトンのイデア論や、動物学・医学の知識などを折衷・統合・総合・合理化した、創造主デミウルゴスによる(唯一神である自身の似姿、宇宙霊魂を持った1つの生命体としての)宇宙の生成と、その内部の構造・運動・神々と動物・人間たちについての、形而上学・自然学的な、自然本性の説明を行う。続いてクリティアスが、
として、
という、理想国家論と現実国家をつなぐ物語・神話を語る予定となっており、既述の通りその概要は『ティマイオス』の冒頭で先に述べられ、その詳細が述べられる予定だった続編『クリティアス』は途中で中断して未完に終わっている。
こうして『ティマイオス』と『クリティアス』で、プラトンは宇宙の生成から当時のアテナイまでをつなぐ、形而上学・自然学から政治学までの領域を網羅した包括的で壮大な物語を構築・展開しようとしていたことが分かる。
なお、結局書かれず仕舞いで、その内容も示唆されてない『ヘルモクラテス』は、ヘルモクラテスが(当時既にプラトンがその政治改革・内紛に関わっていた)シュラクサイの出身であることから、アテナイやシュラクサイのかつての輝かしい時代を回想させつつ、当時の現実国家をどうすれば理想国家へと近づけることができるかという現実的改革論を述べさせる予定だったと考えられるが、そうした内容は最後の対話篇『ノモイ (法律)』へと持ち越されることになった。実際、『ノモイ (法律)』では、『クリティアス』の内容を引き継ぐように、(第1巻-第2巻における、『ポリテイア (国家)』の「国の守護者・教育論」の議論をおさらいするような内容の導入部に続いて) 第3巻において提示される「大洪水後の人類」という議論・切り口を出発点として、その国制論・立法論が開始されている。
『ティマイオス』は、プラトンが中期以降に顕著に影響を受けたパルメニデス・エレア派やピュタゴラス学派といったイタリア半島系の哲学思想と、自身のイデア論、エンペドクレスの四元素説といった思想が統合・合理化された、総括的で壮大な物語・理論が展開されており、特にプラトンが『パルメニデス』以降に抱えていた課題である、イデア論にまつわる諸難問の解決とパルメニデスの思想との調和・統合に関して、彼なりの回答を提示した作品でもある。
プラトンは、『ゴルギアス』『パイドン』『ポリテイア (国家) ≪エルの物語≫』『パイドロス』といった初期から中期対話篇においては、世界観の形成に関して、専ら死後の魂の行き場としての「冥府」に着目していたが、後期には「宇宙」に着目するようになり、『ポリティコス (政治家)』で導入した「宇宙の創造主」という発想を発展させて、本作『ティマイオス』の宇宙観を完成させた。そして、最後の対話篇『ノモイ (法律)』第10巻で展開される神学は、本作『ティマイオス』の宇宙観が前提となっている。(『ノモイ (法律)』第3巻の国制論においても、本作で言及されている大洪水の話が出てくる。)
なお、宇宙の創造主デミウルゴスや、冒頭で概要が述べられるアトランティス大陸と大洪水といった内容が、神秘的かつユダヤ教・キリスト教・グノーシス主義・新プラトン主義などと相性が良かったこともあり、中世から近世に至るまで、『ティマイオス』はプラトンを代表・象徴する作品として受容・注目され、後世に大きな影響を与えた[6][7]。ラファエロの有名な絵画『アテナイの学堂』において、プラトンが『ティマイオス』を抱えているのも、そのためである。
『ティマイオス』において、宇宙創造主として登場するデミウルゴス(デーミウールゴス、希: δημιουργός)は、原義が「工匠・職人」を意味する語であり、固有名詞というよりは「創造者」を意味するとりあえずの名称として、こう名指しされているだけだと考えられる。実際、別の箇所(30Aなど)では端的に「神」(テオス、希: θεός)とも表現されている。
事実上の前作に位置する後期対話篇『ポリティコス (政治家)』中の神話内で導入した、「宇宙の創造主 (デミウルゴス)」という概念 (270Aなど) を発展させる形で、本作のデミウルゴス概念が成立したと考えられる。(また、中期対話篇『ポリテイア (国家)』第7巻の天文学を扱うくだり (530A) においても、僅かながら「天空の創造主 (デミウルゴス)」が言及されている。)
(なお、本作『ティマイオス』と、最後の対話篇『ノモイ (法律)』の狭間に位置し、快楽主義批判が行われる後期対話篇『ピレボス』においても、「存在」概念の4分類における「原因」に言及するくだりで、それが「デミウルゴス(工作者)の役割をするもの」として、この概念・用語が使い回されている。そして、このことから、プラトンがこの概念に、「存在(世界)」の「原因性」を仮託していることが確認される。)
『ティマイオス』における、デミウルゴスや、その宇宙生成の説明には、曖昧な部分も多いため、一般的にはデミウルゴスを「イデアを範型として宇宙を造った神」等と、無難かつ曖昧な表現で説明することが多いが[8]、こうした説明ではその「宇宙の範型たるイデア」だとか「デミウルゴスと他の神々との関係性」等の内実・詳細が、明確に説明されずに曖昧・不明瞭になっているため、あまり適切な説明にはなっていない。原典にはもう少し詳細な説明があり、
といった記述に加え、
などを総合的に勘案すれば、プラトンはクセノパネス・パルメニデス流の世界観・神観(球体(神)と火・土)の影響を受け、それを踏襲していること、また、超越的で唯一不動な本質存在としての「球体(神)」と、火・土から成る「物理現象界」というパルメニデスの世界観の二元論的分裂を、「前者(神)による後者(物理現象界・宇宙)の創造」という物語で接合・統合・合理化しようとしていること等は明らかであり、こうした諸々の情報を踏まえた上で、全体の整合性が取れるように、デミウルゴスをより正確に説明するならば、「(イデアの根源たる)超越的な唯一神である自身の似姿として、唯一の完全なる生き物としての宇宙を、希求し創造した神」ということになる。
このようにデミウルゴスは、他の神々と同列な単なる「創造の神」ではなく、クセノパネス・パルメニデスの思想を背景とした、超越的・根源的・特権的な唯一神である点に注意が必要である。
(※ちなみに、
等から、本作『ティマイオス』における「デミウルゴス」概念は、中期対話篇『ポリテイア (国家)』における「善のイデア」概念を、具現化/形象化/象徴化/神格化した比喩の一種でもあり、「善のイデア」を (概念として「剥き出し」の状態ではなく)『ノモイ (法律)』第10巻のような「神学/敬神を経由した格好での倫理的原因」としても、説明可能にするための「橋渡しの概念」として、持ち出された概念でもあると、言うことができる。)
上述した通り、『ティマイオス』における宇宙は、超越的な唯一神であるデミウルゴスが、自身の似姿として、宇宙それ自体が「唯一の完全なる生き物」となるように創造・構築したものであり(29E、30B、31A-B)、その「生き物としての宇宙」の自足を司る魂として、宇宙霊魂という概念が導入されている。
『ティマイオス』では、デミウルゴスによるその宇宙霊魂の構築は、「有」「同」「異」の3つの混合によって、より詳細には、
の混合によって成されたとされ、その配分は(ピュタゴラス学派風に)数学的(数列的)な表現で説明されている(35A-37C)。
『ティマイオス』では、宇宙の構成要素として、
に加えて、第3の要素として、
という概念が提示されている(48E-53C)。
脱構築で有名な哲学者ジャック・デリダがこの概念に注目したことはよく知られている。
『ティマイオス』では、物質・化学的な生成変化について、エンペドクレスの四元素論に、正多面体を結びつけて説明する、独特な理論が展開されている(53E-56C)。
そのため、これに因んで、正多面体は「プラトン立体」(英: Platonic solids)とも呼ばれるようになった。
昨日ソクラテスに客人としてもてなされたティマイオス等3名が、今日はお返しにソクラテスをもてなすことが予告される。まずはソクラテスが、昨日自分がした話(理想国家論)のおさらいを行い、
といった内容を確認した上で、愛知の素質と政治経験を併せ持っている3名であれば、(ソクラテスや詩人・ソフィストたちよりも)より詳しく完成された国家論を語ることができるであろうこと、それゆえに昨日そのお願いをし、3名も同意して今日こうして来てもらっているといった経緯も確認する。
3名は話をする準備ができていることを確認しつつ、まずはクリティアスが自身の話(アトランティス伝説)の概要を述べていく。
クリティアスは、自分がする話は、かつてソロンが(アテナイと同じ女神(アテナ/ネイト)信仰を持つ)エジプトのサイスの神官から聞いた話で、それを親戚かつ親友でもある自分の曽祖父ドロピデスが聞き、その子供で自分の祖父でもある先代クリティアス(2世)を経由して自分が聞かされた話であり、それは(サイスよりも1000年早く成立した)9000年前のアテナイについての、今では失われてしまった(ヘシオドスやホメロスのような大詩人の作品ですら比肩できないような)偉業の昔話であること、そしてそれは何度も繰り返されてきた天変地異と大規模な滅亡によって失われ、(最初の人間とされるポロネウスやニオべ、大洪水とそれを箱舟で逃れたデウカリオンとピュラの子孫[10]といった、従来の断片的な神話・昔話からは抜け落ちてしまっている)エジプトの神殿の記録においてのみ保存されてきた話であること、そしてその内容とは、
といったものであるという概要を説明する。
そしてクリティアスは、その自分の話によって、ソクラテスが語っていた「理想国家論」を、「自分たちの祖先の話」として現実世界に移すことができると指摘しつつ、まずは事前の取り決め通り、先にティマイオスに宇宙論(宇宙の生成から、人間の自然本性までの話)をしてもらうことにする。
まずティマイオスは、「存在」について、
という区別を持ち込んだ上で、
という前提を立てる。
そして、
という論を立てる。
そして、この「宇宙についての言論」も、たかだか人間によって「生成されたもの」である以上、完全でなくても容赦してもらいたいし、「真実らしい言論」の水準で満足してもらいたいと断りを入れつつ、話を進行する。
続いてティマイオスによると、「宇宙の善き創造主(デミウルゴス)」としての神は、
を欲し、無秩序ではなく秩序が生まれるように、
としての「宇宙」を、それも、
を欲し、
としての「宇宙」を、構築した。
続いてティマイオスによると、神は「生成したもの」「物体的なもの」「感覚できるもの」としての宇宙の身体を、最初「火」と「土」から作ろうとしたが、両者を結びつけるものが必要であり、立体の宇宙を作るための「2つの中項」として「水」「空気」を加え、「火」「土」「水」「空気」の四元素で(外部に何も残さないようにしながら)宇宙の身体を構築した。
さらに神は、宇宙を「球形」に丸く仕上げ、外側を滑らかにして外部との接触・出入りが不要な自己完結的・自足的なものとして仕上げ、知性・思慮の働きに属する運動である「円運動」をさせるようにした。
また、ティマイオスによると、神は「宇宙の身体」に先立って、それを支配する「宇宙の魂」を創った。
神はそれを、
を数列的な比率で混合することで創り上げ、宇宙がそれに満たされることで、天体(太陽系)の円運動や、知性の働きなども可能になった。
またその天体(太陽系)は、「生成されたもの」である宇宙に特有の「時間」を、区分し見張るものともなった。
また、ティマイオスによると、神は宇宙の中に、
という4つの種族が必要だと考えた。
神は、天の神的な種族が輝かしく美しくなるように、その大部分を「火」から作り上げ(恒星)、宇宙に似せて球体にし、宇宙のコスモス(飾り)となるように全体に散りばめて回転運動させた。また大地(地球)はそうした神々(天体)の中で最初に作られた最年長だった。
そして、この天体的な神々や、神話的な神々が生成した後、宇宙の創造主であり父なる神が、彼らに向かって、
を説明・命令した。
神々は、父なる神に命じられた通り、死すべき種族を作った。父なる神が「宇宙霊魂」の制作に使った材料の残りで作って分割した、純度の落ちる魂群を貰い受け、その魂の循環運動を、四元素で作った身体の中に結びつけた。
魂は、最初の出生においては皆が同一の種類であり、最も神を敬う者としての「男」に生まれるが、快・苦が交じった愛(エロース)や恐怖・怒りなどを克服できず、不正な生き方をすると、次の出世から「女」や「獣」へと変転を繰り返すことになる。
神々は、身体の「最も神的な部分」である「頭」を、宇宙に似せて球形に作り、他の身体(四肢)はそれに奉仕するものとして与えた。そして前後の区別を付け、諸器官の内でまず第一に、光を受け取る眼(視覚)を作った。
眼(視覚)は、天の循環運動を見て、思考作用の秩序立てに役立てるよう与えられた。聴覚と音楽の関係も同様である。
続いてティマイオスは、宇宙の構成要素である、
という2つの間に、【母】に相当する第3の構成要素として、「それ自体は感覚されないが、常に動き続ける生成変化を受容し、それに個別的・持続的な仮の存在性を付与するもの」としての、
という概念を導入する。
続いてティマイオスは、「火」「土」「水」「空気」の四元素は、「三角形」を面とした奥行きを持った立体であるとして、「三角形」の組み合わせで作られる主な正多面体として、「正四面体」「正八面体」「正二十面体」「正六面体」の4つを挙げ、これらを
といったように四元素と結びつけ、化学的な生成変化(状態の多様性)や、物理的な運動を説明する。
ちなみに、第5の多面体である「正十二面体」は、神が宇宙の描画に用いたと説明される(55C)。
続いてティマイオスは、「感覚」の話へと移行し、熱冷・重軽・上下・滑粗・快苦といった「身体全体」が影響を受ける感覚や、個々の部分に生じる感覚、すなわち「味」(味覚)、「匂い」(嗅覚)、「音」(聴覚)、「色」(視覚)が生じる仕組みを、先の四元素説を絡めつつ説明していく。
続いてティマイオスは、
という前提から出発し、
といった魂論を絡めつつ、心臓・肺・肝臓・脾臓・腸といった内臓の配置と機能を説明していく。
続いてティマイオスは、神々が、
などと説明していく。
さらに、全ての四肢が一体化してうまく生きれない生き物への救済策として、食糧としての「植物」が作られたという話も付け加えた。
続いてティマイオスは、「血管」と「呼吸」の説明に移り、神々は、
などと説明する。
続いてティマイオスは、「成長」と「老い」に関して、
という発想を持ち込み、
と説明する。
続いてティマイオスは、「身体の病気」の原因として、
という3つを挙げる。
また、
といった説明も、付け加えられる。
続いてティマイオスは、「魂の病気」として、
の2つを挙げる。
続いてティマイオスは、そうした「身体の病気」「魂の病気」の原因は、
にあるとして、それを解消するには、
といった養生法が重要であり、不自然な服薬は極力避けるべきであると説明する。
続いてティマイオスは、人間の「生き方」について言及し始め、
を、(学問(愛知)に取り組んで自らを鍛錬し、「不死なるもの・神的なもの」を対象として思考して「真実」に触れつつ)不断に「世話」をし、良く(エウ)秩序づけられた状態で宿していることが「幸福(エウダイモーン)」であること、そしてそのために、
が重要であると説明する。
続いてティマイオスは、「人間の男」以外の「他の生物」への転生について、
と説明し、生物はこうして「知性」と「愚かさ」の得失に応じた入れ替えを繰り返していると述べる。
こうして全ての話を終えたティマイオスは、「諸々の生き物を包括した、知性によって知られるものの似姿である、感覚される最大・最善で完全な神として生成された、唯一の比類無き宇宙」の説明が完結したと締め括る。
アレクサンドリアのフィロンはギリシア思想に由来するロゴスやイデア論の概念をユダヤ教思想の理解に初めて取り込んだ。フィロンはプラトンの著作とくに『ティマイオス』に影響を受け、「デミウルゴス」の存在をユダヤ教の神「ヤハウェ」に置き換え、旧約聖書とプラトン哲学が調和的であると考えた。フィロンはプラトンを「ギリシアのモーセ」と呼んで、プラトンの思想にモーセが影響を与えたと考えた。フィロンの著作は、初期キリスト教と教父たちの思想、いわゆるアレクサンドリア学派にも大きな影響を与えている。
オリゲネスは初期キリスト教の神学者、いわゆるギリシア教父でアレクサンドリア学派といわれるグループの代表的存在。オリゲネスの世界観や歴史観は新プラトン主義(ネオプラトニズム)の影響を強く受けたものであった。プラトンの『ティマイオス』と旧約聖書の「創世記」の世界創造の記述を融合しようとし、「創造とは神が無に自分の存在を分かち与えたことである」と唱えた。死後異端の疑惑をかけられた。
グノーシス主義はヘレニズムの思想的・宗教的シンクレティズムのなかから生まれた「精神の姿勢」としての世界観的な宗教・思想である。悪であるこの世と善である永遠の世界を対立させて考える二元論である。悪の世界すなわちこの世は物質の世界であり、善である超越的世界はプラトーンの概念ではイデアーの世界に当たる。グノーシス主義は、何故、悪である物質世界が存在するのかを説明するため、『ティマイオス』の創造神話を援用した。すなわち、傲慢な下級の神であるデーミウルゴスがこの不完全な世界を創造したのだ、とした。イデアー界に当たる超越的な世界は、アイオーンから構成されるプレーローマ世界と呼ばれる。人間はプレーローマに起源のある「霊(プネウマ、希: πνευμα)」をうちに持つ存在であるが故に、グノーシス(智慧)の認識を通じて、永遠の世界へと帰還し、救済されるとした。
シモーヌ・ペトルマンによれば、プラトーンの哲学がそもそも二元論で、グノーシス主義に通じた思想である(また「グノーシス主義とは何か」という定義からすると、広義のグノーシス主義となる)。
カルキディウス(Calcidius 4世紀後半-5世紀初)は『ティマイオス』の一部をラテン語訳し、注釈書を著した。『ティマイオス』はプラトンの著作のうち、中世の西ヨーロッパに知られていた数少ない著作の一つである[11]。
12世紀フランスのシャルトル学派の中で『ティマイオス』(カルキディウス訳)が再評価され、注釈書が作られている。